◆ 大いなる遺産 ◆ 〜完結後の未来考察とキャラ総括〜
原作が完結した6月当初、「未来予測コーナー」と題して個人的に愛し続けてきたカッ
プリングをトータルで振り返るつもりだった部分です。
あれこれの都合によりまとまらず、遅れに遅れて完結後約5ヶ月を経てしまいましたが、
何とかようやくここにお届けできることを嬉しく思います。
初めの計画では「ロイアイ部」「マイオリ部」そして「イシュヴァール部」を加えた3
項目ほどに分けて考察するつもりだったのですが、完結後の未来においてはそれら3項
目が切っても切れない関係にあることを踏まえ、それぞれのプライベート面を考慮に入
れながらも総合的に考えてみることに致しました。
しばしお付き合い頂ければ幸いです☆
◆ロイアイを俯瞰する
そうですね、今にして思えば。
何年か前にやめた職場の飲み会に行ったら、以前から周囲をハラハラさせて気になってい
た一組のカップルの姿が見えず…。事情通の友人に「あの二人はあれからどうしたの?」
と尋ねたところ、「ここはやめたけど今も同じ職場にいるって」と答えられ、最近届いた
というハガキに印刷されたツーショット写真を見せられたような…
そんなニュアンスのロイアイ視点的最終回だったのではないかと思い返しています。
(回りくどくて申し訳ありません笑)
そして居合わせた周囲の人間は、彼らが法的に夫婦になったかどうかは分からないけれど、
あの数々の試練の後で今も一緒にいるのなら、多分それは一生の仲に違いないと…
詳しい事情は分からずとも、とにかくもう心配する必要はなさそうだと胸をなで下ろすよ
うな、個人的にはそんな感じの解釈をもって完結を受け入れました。
ただ、私個人的には安堵して終わったのですが、完結後のアニメ誌掲載インタビューでの
荒川先生ご自身の発言によって、彼らの未来に少なからぬ不安を抱いた方々も多かったの
ではないでしょうか?(苦笑)
(※ぱふ2010年9月号掲載インタビューでの、「この先見たくないものを見ることになるだ
ろうと思います(ロイもスカーも)」という発言ですね。うーむ…作品完結後、あらゆる
未来の可能性を読者側の想像にゆだねきった後でのこの発言については、かすかにアンフ
ェアな気も…しなくもありませんが、そこは置いておきます苦笑)
見たくないものを見るだろう…。この発言からロイアイやスカーの「難航するイシュヴァ
ール再建」を想像し、彼らの未来を厳しく暗いものと考える傾向が出たかも知れないのは
とても勿体ないことだと思います。
いえ、確かにトータルで作品を眺めつつ「ロイアイとは何か?」と問われたら、「イシュ
ヴァールの罪で結ばれ、共に贖罪のために生きる男女」と言い捨てることも可能かも知れ
ません。けれど、個人的にはそれではあまりにも表面的すぎるし、あまりにも乱暴な理解
だと思うわけですね。
「運命の絆」と言えば言葉面は美しいですが、贖罪のためだけに未来を消費している人間
なんて実際には想像できませんし、彼らは互いの傷をなめ合って酔いしれているだけの男
女関係ではありません。
それでは彼らは15巻の巻末の段階から何一つ進歩しなかったことになりますし、何よりも
あの復讐劇、その後の究極の選択、それらを乗り越えた二人の、作中での成長が考慮に入
れられていません。
ですから…私はどうしても、もう少し前向きな解釈を施して最終話を消化したいと思うわ
けです。そしてもちろん、それは個人的な妄想にとどまらず、あくまで作中の伏線や材料
を根拠として類推した上での解釈でありたいと。
以下、それをできるだけ具体的に実践してゆきますね☆
◆ヒューズの遺言を無視することはできない
まず、何をもってしてもこれが第一にして絶大な根拠でしょう。
ヒューズの遺言と書きますと、遺言なんてあった?とおっしゃる方も多いかと思いますが。
しかし、ヒューズがロイに対する膨大な影響を残して世を去ったことを考えると、ロイの
記憶に刻まれたすべてのヒューズの言葉が彼の「遺言」であることは疑いようがないんで
すよね。(早く嫁さんもらえ、だけでなく笑)
そしてまさにその点を踏まえて描かれたのが23巻の対エンヴィー戦だったわけです。
すでにあちこちの考察で触れたシーンですので、ここで逐一と個人的意見を繰り返すこと
はいたしませんが、あの瞬間、今しも狂気へと堕ちそうだったロイを「リザと一緒の未来」
へと繋ぎ止めたものこそ、ヒューズの「遺言」の力だったと…。どんなに憎しみの正当な
根拠があったとしても、人が人であるかぎり、人としての愛をその心から失ってはいけな
いのだと…。
ロイの記憶に残るヒューズの生き様や、耳に残るヒューズの言葉のすべてが、そのように
ロイをいさめてリザの元へとどめたという、一言で言えばそのような解釈が成り立つと思
っています。結果として「復讐の連鎖」や「上に立つ者として」云々の倫理よりも、リザ
に対するロイの個人的な感情によってあの場が収まったということです。
(このシーンについては連載当時、疑問を自己補完するための膨大な考察を書いたもので
すが…しかしその後、FA54話での素晴らしい演出フォローによって疑問はすべて解消し、
見事に一本筋の通った神的シーンに落ち着いたと思っています。この場面に関する管理人
の最終意見は、
本誌95話感想よりも
アニメ感想部屋6の54話部分に集約できたと思うので、
万が一ご興味がおありの方はご参照下さいませ。54話は本当〜〜に感動的でした!涙)
つまりはロイの、「人としての愛」の象徴こそリザただ一人、というところが大いに萌え
る所であり、重要な理解ポイントなのですよね。
アニメ誌などの多くの特集では、この事件を「ロイの青さ」に起因すると断定し、「大総
統を目指す人間のくせに私怨にとらわれた」として彼の未熟さをたしなめる解釈が多かっ
た気がしますが、個人的にはまったく異を唱えたいところです。
復讐の相手が人類ではない以上、これはそういった人間界の倫理は通用しない次元で起き
た問題なのです。(確かにロイはまだ青いですが、それはまた別の話。)
そして生前のヒューズの台詞を振り返ってみれば、そこには常に「人とのつながり、他者
への愛」があふれていることに気付かされるでしょう。ヒューズは決して、「贖罪のため
には嫁さんなんかもらうなよ。国民の心証が悪くなるから」とは言わない人でした。
もしかしたら、ロイに「嫁さんもらえ」とアドバイスしたのも、人間兵器と呼ばれる親友
が人間としての愛を見失わぬために、だったのではないでしょうか。
さて、そしてここで声を大にして指摘したいのは、「エンヴィーへの復讐が叶わなかった
からこそ、ロイは今やヒューズの生前の言葉を絶対に無視することができない」という点
なのです。
これはもう当然ですよね。
そうやって「自分の中のヒューズの言葉」を生かしてゆくことこそ、どんな復讐よりもヒ
ューズへのはなむけとなるのだとロイは気付いたはずですし、そうすることによってのみ、
ヒューズは間接的に「最後までロイの野望に参加し、大総統になるまでロイを支え続けた」
ことになるのですから。
とすれば、リザへの愛がゆえに自分を取り戻したロイが、「早く嫁さんもらえ!」に代表
される、リザとの仲に関するヒューズの言葉を忘れるはずがありません。それはロイが、
最も口をすっぱくしてヒューズに言われ続けた助言だったのではないでしょうか。
(一つ書いておきますと、イシュヴァール時代の2人をも知っていたヒューズが「誰でも
いいから早く」という世間話的な意味で「嫁さん」という単語を使ったはずがないのです。
もちろんその真意は「リザちゃんと早く一緒になれ」。そして親友だったロイがその点に
気付いていないはずもまたあり得ないでしょう。マース・ヒューズは初対面のウィンリィ
をさえ自宅に泊めてしまう懐の深い人。その彼が、自宅に親友を呼んで語り明かしたり、
親友の本音を把握していないはずがありません。ヒューズがロイの心情を知らない程度の
人間なら、ロイがああまで彼の復讐に燃えることもなかったのです。)
さて、そうするとロイの中には、「復讐の代わりにヒューズが納得してくれる生き方をし
よう」という動きが芽生えはしないでしょうか?
つまり、ここに対エンヴィー復讐戦は「新たなロイアイ関係の始まり」と読み取ることが
可能なのではないかと思うわけです。
他でもないロイのあのセリフ、「君を失うことはできない」をその境界として。
◆「背中合わせ」の時代は終わった
あの決定的なセリフ、そしてその後の「ぎゅうv」を経てもなお「大佐と中尉は上司部下
以上の関係ではない」と解釈される方々がおられるのには少々驚嘆いたしますが(苦笑)
でも、6年間積み重ねてきた拙サイトのロイアイ考察の風呂敷をまたここで広げてしまっ
ては時間の無駄ですので、ここは一つ動かせない証拠を提示したいと思います。
近々発売のユリイカではなく、今年(2010年)の2月号での牛先生と藤田和日朗先生との
対談がその根拠になります。
お二人のやりとりの中で、藤田先生が「まったく好みの問題ですけど」とされながらも、
「リザ・ホークアイは完全に軍人の使命感だけで大佐に仕えているほうが良かった。この
関係性(リザ=ロイの師匠の娘という)は無い方が好きだったかも。というのは、「任務
で動く女」ってものすごくくるものがあるから。(中略)だから、私生活でも会話があっ
たのは「仕方ないな」と思いつつもちょっと残念(笑)(管理人要約)」…と仰っている
場面があるんですね。
それに対して、牛先生は即座に「でも任務だけだと果たしてどのくらいまで近づけるんで
しょうね」と答え、リザがロイについてゆく思いが「任務だけではない」つまり恋愛感情
に起因するものだと暗に認めておられるのです。
(藤田先生のご意見はなかなかに驚きと言いますか、女の読者として新鮮に聞こえました
が、その点は置いておいて…(笑)是非とも指摘したいのは、藤田先生もごく自然にロイ
とリザとの私的な関係を作品から読み取っておられる、という事実です。牛先生の反応を
見ても、ごくごく自然な流れでロイアイ=恋仲と判断してまったく支障はないことがうか
がえますよね。)
つまり、百歩譲ったとしても、少なくとも作中のリザからロイへの恋愛感情は作者の意図
として汲み取るべきだということです。
長いことはっきりと明記されていなかったのはむしろロイの気持ちの方なんですね。
(いいえ、それだとて数限りない証拠はあるんですけどもね(笑)「今夜の火力」で66に
露骨に嫉妬したり、「グラトニー釣り」の時の会話の夫婦っぷりでフュリーを唖然とさせ
たり、エトセトラエトセトラ…。ただ、想い想われる仲なのは疑いようがないにせよ、今
まで彼らが積極的に2人一緒の幸せな未来を描いてこなかったことは確かに事実です。そ
れは以前の考察でも触れていますが。)
けれど、23巻の「君を失うことはできない」はもはや決定打です。作中で初めて、ロイか
らリザへの本心、人生において何があろうと譲れない思いがはっきりと明言されたのがあ
のセリフなのですね。
ホムンクルスとの死闘のさなか、ようやく深いところでハートを触れあえた2人…。
あの瞬間から、今まで彼ら自身が互いにあきらめていた「2人一緒の未来図(贖罪のため
以外の)」というものが、やっとかすかに見えてきたのではないでしょうか。恐らくはヒ
ューズが切に切に彼らに対して望んでいた、人間としてごく自然な愛のおもむくままの未
来が…。
そしてその後の人体錬成拒絶シーン、ファン待望の「ぎゅうv」における「付き合い長い
からな」あたりの場面では、もうすでにどこか認め合った者同士の会話になっているのが
分かりますね。さらに、作中初となる「共闘」シーン…
今まで隣りにいながらも決して同じ方向を見ていなかった2人が、初めて同時に前を向い
て戦った画期的な場面です。
これらの示唆的なシーンからも、15巻巻末の「道を踏み外したら撃ち殺せ」の状況から比
較して、彼ら自身が彼ら自身の関係を進歩させたことがうかがえるのではないでしょうか。
つまり、2人の「背中合わせ」の時代はここに終わりを告げた…そう解釈しても良いので
はないでしょうか?
◆ロイとリザの未来
以上、駆け足で述べてきましたが。
最終回後、東部に戻ってからの2人の未来は、これらの出来事の上に成り立っていること
を考慮しなければなりません。
「背中合わせ」の時代は終わったと言っても、もちろんリザはずっとロイの副官ですから、
彼が中将になっても大将になっても彼の警護をするのは当然でしょう。
けれど、「生き方」としての背中合わせにはもう決別してもいいのでは…。
それよりももっと前向きに、文字通り2人が一緒に前を向いて歩いてゆく生き方こそ、い
ずれ大総統となって国を背負う男とその伴侶としてふさわしいヴィジョンなのではないで
しょうか。
かつての考察、特に最終回の着地地点を予想しつつ、2009年2月の時点で私財を全額賭け
るつもりで書いた
4周年記念考察は、大まかに言って2つのポイントで予想を大きく裏切
られる結果となってしまいましたが…(苦笑)
(※その2点とは、ひとつは「これから家族となる男女=未来を象徴する新しい命の担い
手こそロイアイ」という予想。これはご存知の通り、表向きには根こそぎエドウィンに持
ってゆかれてしまいましたね(苦笑)ただし、ロイアイが同じ道をたどらなかったという
証拠もまた存在しないのです。結局その点は否定も肯定もされず、ファン一人一人の想像
のままに可能性を残されて終わったわけです。…もう一つの点は、「国民に対する責務は
閣下があの世に背負ってゆくのでは」という予想。これは閣下=ホムンクルスだという情
報そのものが国民に秘匿されたまま終わったため、イシュヴァールの戦争責任は結局それ
ぞれの戦争経験者たちの良心に任される図式となってしまいました。大総統夫人とセリム
の未来のためにはベストなエンディングだった反面、イシュヴァール関係者にとっては少
なからず厄介な終わり方だったと言えます。この点についてはまた後ほど触れることにし
ましょう。)
けれど、だとしても私は…今後2人のウェディング風景がまったく描かれず、両人の口か
らついに「結婚」という単語が聞かれなかったとしても…それでも何の疑問もなく、彼ら
2人が「家族」として幸せに包まれながら生きていると信じてやみません。
なぜなら、最終回後の彼らにとって最も重要な課題は結婚したか否かではなく、「後ろめ
たさを捨てて堂々と2人の幸せを享受できるか否か」だと思うからです。
理不尽に失明したロイを無明の世界から救ったのは、皮肉にもイシュヴァール人の魂で作
られた賢者の石でした。しかしそれはマルコーさんの手によって与えられはしたものの、
より宇宙的な視点から俯瞰すれば、紛れもなく石の中の魂たちによる「意思」だったので
はないかと…個人的にはそう思えてなりません。
それはロイとリザとが命をかけて世界を守った、国民には知らされない尽力への報償と、
「おまえたちが壊したものをおまえたちの手でもう一度作り直せと」いう、人智を超えた
存在からの一つの「赦し」の形ではなかったか、と。
2年後には隣国の「皇帝」リンと条約を結び、やがてイシュヴァールを拠点として交易の
ための鉄道を走らせる準備などなど…
最終回の2年後描写からは、ロイもリザも忙しく働いている様子が垣間見えますね。
そこではもう「未来は贖罪のための供物だ」などと言っているヒマもないことでしょう。
新しいイシュヴァール、そして新しいアメストリス。
彼ら2人が先頭に立って希望を見なければ、国の未来もまた希望のないものになってしま
いますから。
そしていつか…。
ロイは本当の意味で「イシュヴァールの英雄」と呼ばれるようになるのかも知れません。
◆イシュヴァール再建
しかし、どんなにロイとリザが新たな絆で再出発したとしても、イシュヴァール再建途上
での様々な問題は当然ながらその件とは別に存在しています。
完結後インタビューでの、ロイとスカーの今後に関する「見たくないものを見るだろう」
という牛先生発言は、ある意味では当然のこと。戦闘終結以来、あの土地が封鎖地区にな
っているというなら、多少は風化しているにしても何もかも7、8年前のままになってい
るはずなんですよね。
例えば…リザが「背中を焼いてくれ」とロイに頼んだシーンでリザが作っていた、イシュ
人の子供の墓もそのままなら、ロイに「恨みます」と言いつつ焼かれて逝ったイシュ人の
老人の遺体も、白骨化してそのまま転がっているのかも知れません。
また、瓦礫を片付ける中でスカーは身内の遺体と直面しなければならないでしょうし(た
ぶん埋葬はまだですよね)、特に自分の腕を付け替えてまで弟を救った兄者と対面する時
には、われわれ読者が察して余りあるほどの感情がうずまくことでしょう。(想像しただ
けで泣けてきます…兄者のおかげで人間側が勝ったのだし。)
ウィンリィの両親の遺体はキンブリー隊に収容されたとはいえ、あの粗末な治療院はまだ
そのまま残っているはずですし…確かにイシュヴァールの再建とは、それらの「見たくな
いもの」を直視して乗り越えてゆく先にあるんですね。
また、ここで厄介なのが先ほど言いかけた件、最終的に閣下の正体やホムンクルスの存在
自体を国民が知ることなく収拾した、という問題でしょう。
本来ならば、「ホムンクルスの世界的陰謀」という危機があったことは、アメストリス、
イシュヴァール、双方の和解にとって幸いなはずだったと思うのです。「共通の敵」ある
いは「真の敵」というのが存在したことで、「どちらが先に手を出したか」「悪いのはど
ちらか」という永遠のぐるぐる論争にならずに済むはずだった。
けれど、それを一般国民には秘密にしたまま終わった最終回…。
つまりは「真の敵」があればこそ、スカーがアメストリス人と一緒に闘ったことも正当な
理由になるけれど、それを一般のイシュ人に明かせないまま「復讐」から「文化復興」に
切り替わったのでは、「おまえはあいつらの手先となりやがったな」と罵られても当然。
殲滅戦の実行命令を下した大総統をスカーがその手で倒したことも、師父さまや他の武僧
たちがそのことを一般のイシュ人たちに広めなければ、彼らは真実を知ることなく終わっ
てしまうのです。
もう一方のロイたちも同じ。
ロイが人柱であったことは、読者には分かっていますが一般の人々には伝わっていません。
ラジオを通して大総統夫人のフォローがあったとはいえ、「結局は名誉欲のかたまり。野
心のためにクーデターを起こし、大総統の位に着くまでの間、贖罪という偽善をしている」
と言われかねません。
そして4分の一だけイシュヴァール民族の血をひくマイルズさんもまた、一般のイシュ人
からは「その血を持ちながらなぜ国軍に籍を置き続けたのか」と糾弾される立場かも知れ
ません。(スカーが初対面でそう問い正したように。)
…と書きますと、彼らのイシュヴァール再建は非常に前途多難で厳しいものに思えてきま
すが(笑)でも実際には、ロイは2年後にはすでに隣国の「皇帝」リンとの対話を成立さ
せ、いずれイシュヴァールを拠点としてシン国との間に鉄道を敷くことを明言しているわ
けです。(ここであの「使える空き家」での伏線が生きているのにはうなりますね!)
この時、ラジオは「マスタング准将が本格的にイシュヴァール政策に乗り出し…」と伝え
ていますから、おそらく土地の基本的な整備…埋葬や供養の問題や、瓦礫の撤去や、人々
との間の様々な衝突については、この頃までにほぼ解決しているとみて良いのではないで
しょうか。
つまり、ロイアイやスカーが「見たくなかったもの」を見て苦しんだのは事実としても、
それは極端に長い期間にわたるものではなかったはずだということです。
また、スカーの「再構築」の左腕が、閣下との死闘の際に使われただけで終わったとも考
えられません。もちろん彼はその錬金術によって壊れた建物を直したり、そういったプラ
スの方向にも兄の遺産である構築式を使ったことでしょう。
同じ事がロイにも言えますね。
彼もまた、目が戻ったからには先頭に立って己の錬金術を(もちろん手パンで)役立てた
はずだと思います。(焔を使うことはもう2度となかったかも知れませんが…しかし、最
終話の中で失明したままでも大きな物質錬成が行えることを見せてくれましたし。)
そのように自ら現場に出て働く彼らの真摯な姿を見れば、一般のイシュヴァール人たちも
いつまでも石を投げ続けたりはしなかったはずです。
それはウィンリィの両親のエピソードの時に、彼らの手伝いを申し出るイシュ人の子供達
が出てきたのと同じ理屈ですね。
もちろん民衆の中には根強い反発心もあるかも知れませんけれども、そこで強みとなるの
が「宗教」でしょう。彼らイシュヴァール人に「帰依する宗教が1つだけ存在する」とい
うことは大きい。(複数の宗教に分かれていると厄介ですけどね。)
たとえ民衆レベルでロイやスカーへの誤解があったとしても、宗教関係者(武僧たち)が
正しく彼らを理解して支援していれば、早い段階で必ず混乱は収まるはずです。
無宗教の国とは団結力が違いますし、そもそも人口の総数的な規模もそれほど大民族では
ありませんから。(悲しくも、減らされてしまいましたしね。)
そして、師父様や周辺の武僧たちが「復讐の連鎖を絶とう」という心構えなのであれば…
そして、イシュヴァラ教の中に「異教徒にやられたら神の名の下に復讐しろ」という教義
が存在せず、「この世すべてイシュヴァラの懐の下」なのであれば、もっともっと民族感
情の収まりは早いはずだと思います。
少し余談になりますが。
現代の地球上の紛争のほとんどは、複数の民族と複数の宗教帰依者が混ざりあってしまっ
たことに起因します。もつれて固まった糸玉のように、あれはもはやクリアな状態には戻
らないのではないかと…遠く離れた異国の人間としては、そう思えてなりません。
それはすでに贖罪などという話ではない世界なんです。誰もが「お前らが先にやった!」
と言い張るわけですし、宗教指導者同士が殺し合いを推奨しているのですからね。
また、戦争が終わったら困る職業の人々もいます。そしてその人々を後押しする複数の先
進国間の目論見、というのも裏にあるのです。まさに需要と供給…終わるはずのない紛争
なんです。
そんな中にあって、「理不尽は許さないが復讐の負の連鎖は断たねばならん」という教え
の、どれほど儚く無力なことか…。そして目の前で家族を失った人々に対して、どんな心
臓の強い人が「耐えねばならん」と説得できるでしょう?誰が説得されるでしょう?
哀しいけれども、どんなに正論であっても根付かない状況、というのが実際にあるのだと
思わざるを得ません。平和はもちろん尊いものですが、そういった国々に対して我々にで
きることは、平和を祈ることだけ…なのかも知れません。
(…と、こんな事を語ってしまったのは、拙宅の原作95話感想などを読んで、「アラブの
国々を見ても、復讐はやっぱりいけないことだと思う。ロイの復讐もいけないことだった」
とコメントを下さる方がいらしたりしたからです。それほど単純な問題ではないこと、そ
もそも鋼世界とは比較できない話なのだということを、少しでも分かって頂ければ…)
話を元に戻しますが、以上のような理由で、イシュヴァール復興事業は最終回時点から少
なくとも2年後には軌道に乗り、プラスの方向へと動いていったはずだと予想します。
グラマン大総統も認めているとおり、ロイが相当に頑張ったということなのでしょうね。
もう一つ、「イシュヴァール人=憐れみの対象」というアメストリス人側の認識を変えた
いと願うマイルズさんの思惑は、今後イシュヴァールがシンとの交易拠点となり、国の中
でそれなりの重要性を持つ場所となってゆく過程で叶えられてゆくのだと思います。
それを助けるのは言うまでもなく「民族としての誇り」、憐れまれることに慣れつつあっ
たイシュヴァール人たちのプライドを喚起することが第一でしょう。
そしてそのためには民族独自の文化や宗教の復興が不可欠…。となれば、もともとイシュ
ヴァラ教の武僧であるスカーの専門知識も、そこで正しい方向へと生かされてくるわけで
す。
そうなれば、マイルズさんの冒険的抜擢も大いに報われますし、結果としてオリヴィエ様
の選択は大正解だったことになり、マイオリ2人にとってもイシュヴァール復興は希望の
種、希望の樹となってゆくのでしょうね。
最終回のすべての伏線が、こうして未来にわたってまで功を奏してゆくのが素晴らしいで
す。もちろん現実にはこれほどうまくゆかないことも多いのでしょうが、物語としてはま
ったく見事と言う他はないですよね。
◆ロイアイとスカー
最も大事なことは、ロイとリザはぽつんと孤立したままでイシュヴァール再建を行うので
はないということです。同じく苦しい立場を持ち、生き残ったイシュヴァール人たちから
の厳しい声を共に背負う仲間がいる、というのは何よりも心強い事でしょう。
もちろんそれは他のマスタン組、ブレダやフュリーのことではありません。
他でもないスカーと、彼を「イシュヴァールの民俗文化の伝道師」として抜擢したマイル
ズさん、そしてロイに賢者の石を譲ってくれたマルコーさん…彼らのことを指しています。
特にスカー…彼は皮肉にも、復興の現場においてロイとリザの最大の理解者となるはず。
そのための種は、23巻の対エンヴィー戦の際にすでに蒔かれていたわけですね。
あのシーンをリアルタイムで読んでいた連載時には思いもよらぬことでしたが、結果とし
てスカーが生き残ってイシュヴァールに帰還したことは、ロイアイ支持者としては願って
もない福音だったと思っています。
スカーの方は、復讐鬼だった自分が改心した経緯を全部知られている恥ずかしさを持ち、
ロイは自分を仇だと狙っていたけれど改心した男に、自分が復讐鬼となって荒れ狂った所
を見られてしまった恥ずかしさを持つ。
そしてリザは、過去を飲み込んでロイの激情を静めようと動いてくれた、立場から言えば
イシュヴァールの憎しみ代表であるスカーにはっきりと感謝を述べた。
おそらくはあの地下で、ロイとリザが相愛な仲であることはすでに認識していたスカーだ
とは思いますが(一応大人なんですから笑)、さらにその後の「人体錬成拒否」シーンで
は2人の壮絶なやりとりを見届け、その後の「ぎゅうv」まで見届けた貴重な証人…。
その3人が、因縁の土地で目標を同じくして力を合わせることになるとは…
何とも運命的で複雑な縁ですね。
けれど、彼ら3人が奇縁を通じて分かり合ってゆく過程こそ、殲滅戦からの「心理的な」
復興のモデルケースになるのだと思います。
ロイはかつて15巻で、殲滅対象だったイシュヴァールの人々のことを何一つ知らずに戦い
を終えてしまったことを悔いていましたが、今度こそ僧であるスカーからイシュの文化や
宗教などを学び、過去の自分の行為の重さを改めて噛みしめるのでしょうね。
そして、恐らくはマルコーさんから賢者の石(=原料がイシュ人の命である)の使い途を
伝えられたスカーは、故郷復興のためのロイの尽力をその目で見、更には中央地下でのロ
イの葛藤を思い出し、マルコーさんの選択が正しかったことを認めるのだと思います。
誰がそうするよりも、かつてロイの命を狙っていたスカーに行いを認められて赦される事
ほど、ロイの深い後悔の念を癒す効果的な方法もないでしょうし、それはリザについても
同じです。(更に言えばマルコーさんもまた、あのエンヴィーとの「禊ぎ」の戦いをスカ
ーに認めてもらえたからこそ自我を立て直すことができたんですよね。)
逆にスカー自身についても、「生き残った意味」を模索する彼に、「君と君の兄の研究が
なければこの国は滅んでいた」と深く認めてやれるのはロイアイとマルコーさんだけでし
ょうし、それは数奇な運命を背負ったスカーにとって神以上の赦しとなるような気もしま
すね。
亡き兄の言葉を思いつつ歩いてゆくスカーと、亡き親友の言葉を思いつつ歩いてゆくロイ。
さほど年齢も違わないはずの2人の間に、やがて友情にも似た絆が生まれるのか否か…。
物語の本流とは関係のない部分ではありますが、未来とは分からないものだと唸るほかな
い心境です。
(さらに言えば、スカーに関連する多くの「未来再会」を想像することが興味深いです。
その筆頭はもちろんウィンリィとの再会でしょう。「己れは2度死んだ」と言うスカーで
すが、イシュヴァール復興が叶った時、最初に自分を生かしてくれたロックベル夫妻への
思いはどんなものだったのか…。そして最終戦でのスカーの働きは、エドからウィンリィ
に伝えられたのか否か…。それらを重ねつつ、地理的にも同じ東部に住む彼らの再会を思
うと感慨深いものがあります。また、シンに帰国したメイとの再会もあり得ないことでは
ありません。いずれアルと国際結婚した(あるいは結婚前でも笑)メイならば、東部をう
ろうろしていても不思議はないですから。そして少女から乙女へ、美しい中華娘に成長し
たメイを目の当たりにしたスカーの心中やいかに…?と想像するのもまた楽しいものです。
さらに個人的に最も気になるのは、再会ではありませんがスカーと大総統夫人との対面で
す。何と言っても彼は閣下の最期の言葉を聞いた世界でただ2人のうちの1人ですから…。
(もちろんランファンと夫人との対面も気になりますが、若き皇帝のそばを離れない彼女
よりはやはり、スカーの方が接触する可能性は高いと思うので。)まぁもっとも、スカー
の存在はすでに世間からは葬り去られていますし、夫人にとっては夫の仇と言葉を交わす
などということは心穏やかでいられるはずもないイベントなので、ほぼあり得ない対面で
はあるのですが…。ただ、一方的に、遠目から「あれが前大総統夫人と問題のホムンクル
スの子息だ」と教えられたスカーが、閣下の言葉を思い出して「なるほど、王の伴侶たる
矜持を感じさせる婦人だ」と畏れを抱くなどといった、いささか妄想に近い想像がどうし
ても頭を去りません。(ほか、スカーの正体を知らない夫人とどこかでニアミスの会話を
交わす等々…苦笑)閣下のあの台詞は、関係者には誰1人として伝わらずに終わるからこ
そ良いのだとは思う反面、せめて誰か1人くらいは閣下の最期の思いを理解してほしいと
思ったりもします。もちろん、これこそ物語の本流とは全く関係のない部分ですが笑)
◆マイオリ総括
さて、では最後にこちらの2人についても少しばかり考察してみたいと思います。
皮肉なことに、最終回でのカップリング的扱いとしては、ロイとリザよりもずっと親密な
空気で描かれていたオリヴィエマイルズのペア…(苦笑)何よりも「うちのマイルズ」と
いう姉上のごく自然な言い回しには、思わず刑事コロンボの口癖、「うちのかみさん」が
脳裏にフラッシュバックする有様で…いやはやその勝手知ったる慣れ度と言いますか、完
全なる「私物」状態には大いに相好をゆるめさせてもらった次第でした。
個人的にはもともと彼ら2人の事実婚説を支持していることもあり、最終回後の彼らの未
来に特別な進展を望む思いはなかったのですが、それでもNewtype7月号での原作完結記念
インタビュー記事には心沸き立ちましたね(笑)
これはもう、該当部分を丸ごと引用してしまいましょう。
読者VS荒川先生の「Q&A七番勝負!」なるコーナーにて、以下のような問答があるのです。
Q:アームストロング家にお嫁さんは来るのでしょうか?
A:あー、誰かくるのかな…。そもそも(オリヴィエ)少将はどうなんだ?お姉さんは天
涯孤独なんですかね。「つりあう男がいない!」って。でも合理的に政略結婚しそうです
よね。
「あいつだ!あいつがうちの血に入れば!」みたいな。(引用終わり)
…合理的な政略結婚!(笑)
もうお分かりの通り、牛先生は徹底してオリヴィエ+マイルズに「血の話」を振ってきま
す。生まれも育ちも血も生粋のアメストリス人である姉上は、マイルズさんの身体に流れ
る「多様な民族の血」を尊び、そしてマイルズさんはキンブリーの前で大芝居を打つ際に
「イシュヴァールの血にかけて誓いを守れ」とスカーに念を押す…。
そして姉上の結婚が「自分にとって有利に働くであろう血」を考慮して決められるのであ
れば、もうその相手はマイルズさんしかいないではありませんか?(笑)
というのも、同じく原作完結記念のインタビューが企画された他のアニメ誌では、「グラ
マンの次はロイが大総統、その次をオリヴィエが狙ってる感じ」という牛先生の回答があ
るからです。
大総統という地位にとって、最も要となるのが周辺諸国との外交だと言っても過言ではな
いでしょう。特にロイの時代に実現するであろう軍備縮小と民主化のことを考えると、そ
の次の姉上の時代には、かつて軍事国家であった時代よりもなお一層の難しさをもって外
交問題が取り沙汰されそうなことは目に見えています。
そんな状況にあって、もしも国家元首の配偶者が3民族のクオーターであればどうでしょ
う?まさにその人物の持つ「多様な血と多様な価値観」が、周辺諸国とのやりとりの中で
影響力を持ちはしないでしょうか?
というわけで、すでにその「政略結婚」の答えは16巻の回想シーンで出されていると思い
ます(笑)いや、本当にマイルズさんの利用価値というのは壮絶ですね!ロイがその点に
着目し、自身のイシュヴァール政策に彼を「借り出し」たのもうなづけます。
(念のためにおさらいしますと、マイルズさんは母方の祖父がイシュヴァール人、祖母は
他国人で、父親は祖母とは別の他国人です。自身はアメストリス生まれで、そして問題の
妻(笑)が恐らく生粋のアメストリス人…なんですよね☆)
◆おわりに
丸6年と少し、ひたすらロイとリザの幸せな結末を祈り、彼らの相愛を冷静に証明したい
一心で書き続けたロイアイ考察も、これが本当の最後となります。
厳密に言えば、「幸せを見届ける」ことは叶いませんでしたが(苦笑)
しかし108話感想等で繰り返し書きました通り、今までの伏線がすべて生かされたままで
終わったことだけは事実なのです。
それはもちろん、結果的に彼らの未来の状況はそれら伏線から類推できる妥当な範囲内で
あるということ…。従って、このサイトの考察からそれほど逸脱したものには決してなら
ないはずだと…最後なので自負してみようかと思います(笑)
真面目な話、完結後の作者インタビューの中で「ロイの何年後かの大総統就任」は実際に
確定していますから、大総統という重みある地位の人間に「内縁の妻」ではいささか外聞
が良くないという点を考慮しても、遅くともその頃までにはロイ・マスタングの妻である
リザ・ホークアイの存在は国民みなが知る所になっているだろうと…そのように確信して
います。
もちろん、まだその頃にも彼らの「戦犯」としての自覚は消えていないのかも知れません。
けれども、だからと言って彼らにプライベートな生活が存在しないわけではないですし…
例えば日本を例にとっても、戦争に参加して終戦で帰って来た人々が全員、贖罪の念から
結婚もせず子孫も作らなかったとか、一生清貧を貫いたという話もあまり聞きません。
むしろ肉親の暖かさに恵まれなかった彼らだからこそ、初めて人並みの家族のぬくもりを
知り、そこから得たものを国の将来へと返してゆくのではないかと…またそうであってこ
そ天国のヒューズも心からロイを認め、安堵するのではないかと思えてなりません。
TV…は無くとも、新聞に載せられた新しいファーストレディの写真を見て、国民はその
気品と美貌にどのような感想を抱くのでしょうね。
もしも今後、スピンオフや関連した物語で彼らが主役になれなくとも、個人的にはすでに
満足を得ておりますが…
しかし願わくばほんの一枚のツーショットででも、例えば気まぐれに届いた年賀状のよう
なニュアンスで、2人の近況を垣間見ることができたらと…密かに祈ってやまない管理人
でした。
サイト開設以来、ロイアイ考察をご愛顧下さったすべての方々に心から御礼申し上げます。
ありがとうございました!
文責:結城鈴々
(2010/11/25〜最終更新2010/12/7)