第95話感想その2(2009年6月7日)(再UP:6月25日)
序にかえて
色々と物議を醸した(笑)この95話、様々な視点から読むことのできる内容だった
だけに、管理人本人も初読時と脳内の粗熱のとれた現在とでは受け取り方に大きな
差が出てきてしまいました。
そこで苦肉の策ながら、ここにもう一度自分用メモを錬成し直して内容を振り返っ
てみることにいたしました。
お付き合い願える方はどうぞお付き合い下さい。
(5/15付けの日記に掲載していたロイアイ考察を骨組みとしています。)
なぜか腑に落ちない、何かが足りない、でもその何かとは何なのかが判然としない。
そんな95話でしたが、とにかくちゃんとした手順で今月号を萌えに転じたいと切に
思いまして。(というのも、ロイアイファンにとって問答無用の神萌えvセリフを
出すことで、重要な部分をごまかされてしまった感があったためです。)
先々月号くらいから今月号までのロイアイ会話の場面を何度もシミュレイトしたり、
過去のヒューズのセリフなどを吟味したり、コミックス収録時に続けて読んだ場合
のメリハリ等を考え合わせて、ようやく違和感の原因を整理しました。
以下、順に書き出してみますとこんな感じです。
1:エド・スカー・リザの3人がロイに畳みかけた言葉は、いずれもロイの「理性」
に訴えるものだった。つまりロイは、読者が思い込んでいたほど理性を失っている
状態ではなかったということ。(少なくとも作中の3人には「まだ理性を喪失して
いない」と判断できた。)凶悪な目の光などから錯乱、狂乱状態だと想像してしま
ったが、実際の彼は怒り心頭とはいえ己を忘れるまでには至っていなかった。
そういう意味では、94話以降のロイの表情は少なからずオーバーな描かれ方ではな
かったか。(94話の煽りコピーでも狂乱ではなく「暴走」と書いてありますね)
2:リザが「エンヴィーは私が殺します」と言っているのを見ても、牛先生はホム
ンクルス相手に人間社会の倫理を持ちだす気は無いのだと判断してよいと思う。
しかし、にもかかわらず「国のトップを志す者として」という倫理的理由を持ち出
してしまったのが矛盾の原因となった。ストレートに「このままではあなたの気が
ふれてしまう」で良かったのではないか。
3:そもそも3人はロイがエンヴィーに復讐する行為そのものを諫めたのではない。
もし私怨を晴らさせないつもりであれば、彼らはすでに94話の段階でロイの勝利を
確信していたのだから、あの時点でロイを止めていたはず。
従って、彼らが止めたのはロイの復讐行為ではなく、残忍な戦闘方法によって浸食
されそうだったロイの心である。(実質は同じ事かも知れないが、これを厳密に分
けて考えないと3人のうち特にリザがなぜあの時点までロイを止めなかったのかが
説明できない)
ロイが暴走さえしなければ、もちろん彼の私怨は100%果たされたことになる。
付け加えれば、「殺さない覚悟」や「負の感情の連鎖」などはこの場面に全く関係
がない。
4:やはり重要なのは94話でエンヴィーがクリオネ化(無力化)に至った事実では
ないのか。なぜなら自然法則の中では、どんな敵であれ対抗する力を失った時点で
それはただの「生命」として扱われるべきだから。自然界の動物たちは捕食や繁殖、
なわばりのためなど、自らの生存のため以外に他の生命を殺すことはない。
百歩譲ってロイが憎しみの末にエンヴィーを殺したとしても、それが相手にまだ抵
抗力のあるうちであれば、それは生物同士の「一騎打ち」で終わったはず。
「畜生道」「私の獲物」という言葉が使われているのを見ても、この場面における
牛先生の判断基準が人間の倫理ではなく、弱肉強食に代表される自然界の掟である
と想像できる。なぜならこの作品の中では自然法則こそが「神」だから。
つまり作品全体が「錬金術世界」だということになり、それは「全は一、一は全」
の真理と完全にシンクロするのだと思う。
(この点に関しては本っ当〜に見事です。牛先生…やっぱり凄いお人…!)
5:リザが「そちらに堕ちてはいけない」と哀願するシーンでロイの葛藤の象徴と
して描かれた若かりしヒュロイの写真一枚。でもこの一枚だけでロイを憎しみへと
駆り立てたエネルギーを説明しきるのには無理があるし、乱暴すぎる。
93話ではロイの激情に火をつけたのは「エンヴィーのグレイシアへの変身」という
描かれ方になっているわけだし、ただ一コマだけ、あの写真によって二人の友情を
ほのめかすのみではいささか説明不足である。
偉そうに作品を批評する資格はないが、今度ばかりは牛先生は少々急ぎすぎたので
はないか。あるいは読者の脳内補完力に頼りすぎたのか、どちらかかと思う。
こんなところでしょうか。
もちろんロイアイストにとって最も重要なのは上記の5の部分ですので、ここはも
っと掘り下げてみなくてはいけません。
ロイが最後の一撃を踏みとどまった直接の理由がリザへの愛情だった以上、ロイを
激情へと駆り立てた要因が彼とヒューズとの友情だけではどうしても何かが足りな
いんです。もっと、「男二人が共有した夢」以外の何かが必要なんです。(そもそ
も当の「夢」について二人が語らうシーンは作中にほんのわずかですしね;)
では、それは一体何か?
考え抜いてようやく分かりました。
これ、「
鍵はグレイシア」なのです。絶対そうだと思います。
ロイとヒューズ、二人だけを念頭に置いて考えていたから理解不能だったんですね。
感想その1の考察を書いていて、「自分がグレイシアだったら何を思うだろう」と
想像していたらハッと気づきました。
ロイの激情を煽ったのは「途切れた友情」ではなくて、「途切れたヒューズ一家の
幸せ」だったのではないかと。
ああ管理人、何と浅はかだったことか… 思えばヒューズという人は、事あるごと
に妻や娘の自慢ばかりする超マイホームパパだったのでした。
つまりロイは、極論すれば友情のためにヒューズの仇を討ちたかったのではなくて、
「ヒューズ家の幸せ」の仇を討ちたかったのではないでしょうか。
夢を共有する親友を殺した罪と言うよりは、家族を溺愛する男をその家族から永遠
に遠ざけた、その罪が許せなかったのではないかと思うのです。
それなら理由として十二分に説得力があります。何と言ってもこの作品は「家族の
きずな」の物語なのですから。
そしてエンヴィーがヒューズを、事もあろうに当のグレイシアに化けて撃ったのだ
と知った時……。そりゃ激情に駆られて当然ですよね(涙)
読んでいるだけの私だって憎しみで歯噛みをしたくなります。ヒューズの目に最後
に映ったのが、凶悪な顔をした愛する妻だったなんて…
あああ悔しくなってきた!やっぱりロイに復讐を遂げてほしかったです!!
……けれども。
これにはもう一つ奥があるんですよね。
ロイが最後の一撃を思いとどまるか否かで葛藤する場面で、あの写真一枚しか描か
れていないのは本当に、急ぎすぎだと切に切に思います。なんと惜しいことか…
せめてあの写真が若き日のヒュロイではなくて、あの電話ボックスでヒューズのメ
モ帳からすべりおちた、ヒューズ一家の写真だったなら…
あるいはあそこでロイの脳裏をよぎったのが、例えばヒューズの「可愛いの何のっ
てよぉv(写真にチュv)」や、「早く嫁さんもらえ」、あるいはフィギアBlueの
短編の中の二人のやりとり、
「その血で汚れた手で惚れた女を抱きしめるのか」
「文句があるか!!俺は戦場で分かったんだ。惚れた女と家庭持って暮らすなんて
どこにでもある幸せだ。だが極上の幸せだ!!それを手に入れるためなら何だって
してやる!生き残ってやる!あいつを幸せにしてやる!!」
…などだった、と想像すると、その後のシーンがすべて納得のゆくものになると思
うのですが。
なぜなら、ヒューズがグレイシアを「幸せにしてやる!」と叫んだ時、そして後日
ヒューズがそれを有言実行してゆくのを見守っている間も、ロイの脳裏にあったの
は常に自分とリザとの行く末だったに違いないからです。
夫婦となって家族のきずなで結ばれたヒューズ夫妻と、背中を預ける約束によって
結ばれた自分たち…。戦争責任という重い未来とどんなに矛盾はしていても、「リ
ザを幸せにしたい」そして「自分たちもヒューズ一家のようになれたら」という思
いは常にロイの心にあったはずだと思うのです。
そうであったからこそ、そして、他ならぬヒューズが「ロイとリザの幸せを最も願
った人」だったからこそ、ロイは95話で最終的にはヒューズの復讐を断念し、リザ
と共にある未来の方を選ぶ事ができたのでしょう。
作中では明記されていませんが、ヒューズは事あるごとに彼らに結婚を勧めていた
はずです。ロイときちんと話せた最後の電話で「早く嫁さんもらえ!」と言ってい
るようにね。(知り合ったばかりのウィンリィをさえ「いい嫁さんになるぞ」と評
する人ですから(笑)リザについてロイに何も言っていないはずがありません)
そしてあの最後の電話は、結果的にロイに向けたヒューズの遺言となった。
つまりロイの耳に残ったヒューズの最後の声は「嫁さんもらえ」だったわけです。
(これは恐らくラストへの伏線となると思います。)
そしてこれも作中では描かれていませんが、ヒューズの死後にロイは必ずグレイシ
アと会って話しているはず。その時恐らくグレイシアは、ロイに(もし同行してい
ればリザにも)、
「彼はあなたたちの事をいつも心配していたわ。目的を果たしたら、二人で幸せに
なるのよ。必ずね」
という類のことを言っていると思う。
実の親兄弟のいない孤独な二人の恋を、恐らく誰よりも心配してくれたのはヒュー
ズ夫妻なのです。(マダムを除けばね。)
そしてそれは、ロイの胸深くに痛いほど刻印されているはず。
トップの椅子を手に入れて国を変える、そして他の誰を失おうとリザだけは守る、
その2つはもう、ロイにとっては絶対使命でしょう。
だからこそ、95話の中でのリザのセリフが決定的な響きを持つのです。
「この身体もろとも焔の錬金術を消し去る」
…これはもうロイの人生の終わりを意味している。
愛する女を失うばかりでなく、執務室での約束も、彼女から授けられた師匠の秘伝
も、「娘を頼む」という師匠の遺言も、すべてを踏みにじることになりますから。
これこそ真の畜生道、まさに人の道を外れた行為ではないでしょうか?
そんなわけで。
これらを全部吟味すれば、確かにどう考えても、95話のロイは自分を抑えるしか道
はなかったのだと思います。今では痛いほど理解できます。
それこそ涙が出るほどに…(涙)
重ねて主張しますが、写真一枚では絶対に足りなかったシーンでした。
回想シーン等でここまで深く心理をえぐらなければ、莫大な激情と闘うロイの心を
説明するだけの根拠にはならなかったのではないでしょうか。
そして結局のところ、誰に何を諫められようとロイにとっては畜生道などどうでも
よい事だったのだと私は確信します。
なぜなら、結果としてロイを思いとどまらせたのは「国のトップ」という言葉では
なかったのですから。いいえ、それ以前にロイはそもそも「復讐を思いとどまった
わけではない」とさえ、私は考えています。
(この点については後ほどまた触れます。)
でも!
リザを失うことだけは!
ヒューズの遺言、あの最後の「早く嫁さんもらえ」が二人の幸せを願う言葉であっ
た以上、当のヒューズの復讐と引き替えにリザの命、リザの愛を永遠に失うことだ
けは、ロイには何としてもできなかったのです。
「…それは困る。君を失う訳にはいかない」
そう。ロイは復讐を諦めたのではなく、リザを失う訳にはいかなかっただけ。
今ならこのセリフにも納得がゆきます。
またそうであってこそ、今後の二人を見守ってゆけるというものです。
戦争責任や色々な障壁が二人の間に山積みであっても、ロイが自分たちの幸せな未
来をまだ完全には捨てていないのだという兆しが見えて、心から安心しました。
うん。良かったと思います(涙)
ただし、萌えて万々歳とはゆかないところが95話のシビアなところですが…。
(この点についても後ほどまた語ります。)
ロイアイ会話を振り返る
ではここでもう一度、二人のセリフを検証して味わってゆきたいと思います。
初読後すぐの段階では、疑問が多すぎてそんな余裕もありませんでしたので(笑)
ええと、最初から順に見ていった方がいいでしょうか。
まず、説得1番手はエドでした。
でもこれにはロイの心は何も動かされていない。
スカーの言葉でようやくちょっと心が動いた感じですね。「何だと?」という風に。
でもやっと反論の言葉が出たのはリザの言葉を聞いてからです。
この場面、判で押したように3人ともロイを止める理由が同じなのが興味深いので
すが…。
でもそうですね、激情に我を忘れそうな人間の目を覚まさせるためには、その人に
とって最も大切なことや大切な物が壊れますよ、失いますよ、と脅すのがいちばん
効果的ではあります。
もちろんロイにとって最も大切なものは「リザ」だったわけですが、年若いエドや
つい最近まで敵だったスカーにそこまで推し量ることが可能なはずもなく…(笑)
そして天然なリザ本人は、実は最終手段としてその手を無自覚に(しかし必然とし
て)使ったわけですが、そこは愛ゆえの必死さだったということで…(笑)
ですからこの場合、3人が「国のトップを目指す目的」を持ち出したのは、そうい
う意味では最も妥当だったのかも知れません。
でもごめんなさい、リザの次のセリフは私、大嫌いです。
「今の貴方は国のためでも仲間を助けるためでもない!!憎しみを晴らす、ただそ
れだけの行為に蝕まれている!!!」
これではリザが愛するのはあくまで「国のためなら己を捨てて尽くすロイ」??
という感じです。まるで彼女が融通の利かない番犬ロボットか何かに見えてしまい
ます(泣)ここはもっと正直に、私情をはさんでほしかった。
「憎しみに彩られたあなたの顔なんか嫌です!!そんなの大佐じゃありません!!」
とか、そんな風に言ってくれた方がずっとずっと萌えました。
(まぁ恐らく言いたいことは同じだったのだと思いますが。)
だから、「お願いです大佐…」で銃も声も震えている感じなのはとても萌えます。
あなたの心を守りたいの、という強い思いが感じられて。
そして「そちらに堕ちてはいけない…」と彼女が言ったことで、ロイがほんとうに
危険な状態であることが分かりますね。
いつも平気で足蹴りして無能と呼んでる相手に、リザが哀願するなんて…!
これは非常事態中の非常事態なのですね。
しかし、荒れ狂う大の男に対してこれだけ言えるというのは本当にすごいことです。
「やっとだぞ!!やっと追い詰めたんだぞ!!」
「わかっています!!!でも!!!」
の激しい応酬を見ても、ああやっぱりこの人たちってほんとに濃密に男女の仲なん
だなと…今回しみじみ実感しました。
愛する男だから、自分のものだからこそこれだけ言えるんですよね。
94話の「ウソよ」には内心で「まさか秘伝以降はプラトニック!?」と疑わないで
もなかったのですが。(いやしかし、あれもよく考えればエンヴィー相手に真実を
教えておく義理はないわけで、やはり嘘でなく本当と考えるのが妥当なのですがv)
でも読み返してみれば、あの時もエンヴィーがまだロイの姿から戻る前にすでに撃
っていますし、95話でもこれだけ奥底からの叫びでロイの心を指摘している。いや
「指摘」なんてお上品なものじゃないですね。「暴く」ほどの激しさです。
そういった激しい言動は、やはりプラトニックだったらできることではない。
足蹴りも同じ部類の行動ですが、相手が自分の一部になっているからこそ踏み込め
る領域だと思います。
しかし、この写真以降のやりとりは恐ろしいまでに深刻かつ回りくどい表現です。
表面通り、言葉通りに読もうと思えばそれでも意味が通ってしまいますが、実際に
は単語1つ1つに何重もの二人の思いが込められている気がします。もうこれは、
彼ら二人にしか理解できない暗号に等しい会話ですね。
まずは写真直後のロイのこの一見投げやりなセリフですが…
「撃ちたければ撃てばいい」
実は今までは、ロイは「リザには撃てない」と分かっていて無意識に甘えている、
あるいは自分の激情をもてあまし捨て鉢になっている…等の解釈を考えていました。
でもこれは違います。違うと思います。
そうだとすると、次のリザの表情が痛々しすぎるのです。
このなす術を失ったような絶望の顔…。
恐らくリザは「そんなことはできません」と困っているのではありません。
心底から絶望し、追い詰められたのです。
なぜでしょうか?もちろん理由は1つでしょう。
それは「撃ちたければ撃てばいい」というのがロイの本気の言葉だったからです。
つまりロイは激情と闘った結果、ヒューズへの感情を諦められなかったのです。
その場の勢いや、勝手にしろ的な投げやりではなくて、彼の意志として、
「今度ばかりは君に撃たれても自分を貫くぞ」とリザに断言したのです。
それこそ有無を言わせぬ口調で…。
だからこそ、リザは心から絶望したのだと思います。
ただし、それには条件があったわけですね。ここがロイのロイらしい部分です。
「だが私を撃ち殺したその後、君はどうする」
ここでこの条件を持ち出している以上、ロイは「復讐を諦められない」と本音を言
いつつも、その実は攻撃をやめる心づもりがあったことになります。リザが自分の
後を追うであろうことぐらい彼には分かりきっていたはずですから。
従って、セリフ自体は簡潔ではありますが、しかしここに込められた本来の意味、
ロイの心情は恐らくこういうものです。
「だが、それは君が私の亡きあとも生き延びてくれることが条件だ。君がもし約束
通り地獄まで私に付いてくるというのなら……無念だが思いとどまるしかない。ど
うなんだ?」…と。
まるで普段から公私混同の意見を言わないリザに、公ではなく「私情100%」の答え
を無理にでも言わせようとしているようなロイの言葉。
もはや真剣白刃の勝負ですね。生きるか死ぬか、愛の駆け引きです。
ロイが自分の答え次第では己のラインから一歩も引かないと分かった以上、こうな
ったらリザも、打算や任務や他の何もかもを捨てて、心のままを素直に答えなけれ
ばならなかった。
ですから、次のセリフはリザの真心です。愛する男に向けての、素のままの彼女の
思いなのだと思います。
「私一人のうのうと生きて行く気はありません」
「この闘いが終わったら、狂気を生み出す焔の錬金術をこの身体もろともこの世か
ら消し去ります」
前半はもちろん「あなたのいない世界には生きていられません」という意味ですね。
そして慄然とするのは後半の方です。これはつまり、
「だからこの世界が救われたことを見届けたらもう未練は何もない。私がこの世に
存在した痕跡を何も残さずに、あなたの後を追います」
そういうことでしょう。
つまりもしロイが復讐の方を選んだら、間接的に二人ともリザの授けた秘伝によっ
て殺されたことになるのです。
別の言い方をすれば、ホークアイ師匠が極めた「最高の錬金術」の末路は、それを
託された愛娘と伝授された男をこの世から消し去って終わるという悲惨なものにな
るわけです。
…なんと不毛な末路でしょうか(涙)
これではまるでリザは呪いを背負わされた娘のようです。
そして自分の呪いをロイにも分け与えてしまった罪の意識から解放されぬまま、自
分ごとその呪いを消し去ると言っているも同然のセリフ。
二人がせっかく出会い、複雑な事情のもとでそれでも愛を貫いて、自分たちの幸せ
を望まずに次の世代のために血を流し、二人で夢見る未来もなく、それでも何とか
一緒にここまで来たというのに…
なのにその結果が何も残せず、何も残らないまま、彼らの愛さえもすれ違ったまま、
ここまで命を賭けた男の頭をおまえが撃ち抜け、という命令で終わるというのか。
無力な虫ケラ、ホムンクルスのなれの果てにとどめを刺すことと引き替えに?
…自分を愛してくれる女に、そんなことを言える男はいませんよね。
それこそ畜生以下です。無理心中よりもひどい。
そして師匠よりマダムより、死んでしまった親族より誰よりも、マース・ヒューズ
その人がこんな結末を二人に望むはずはなかったのです。
「それは困る…君を失うわけにはいかない」
ああ…やっとたどり着いた答えですね(涙)
そう、ロイは決して「国のトップに立つ野望を失うわけには」とか、「大総統の椅
子を失うわけにはいかない」とは答えなかった。
ただ一人、「君を」と言った、ロイのその心のなんと愛おしいことか…!!
リザの言葉に打算など何も含まれていないことは、もちろんロイには自明だったで
しょう。彼女はロイを引き留めるために演技でこういうことを言う女ではない。
むしろ彼女はロイに何も懇願せずに、彼の意志で選ばせたのだと思います。
復讐と、そうでない道をね。
だからロイは選んだのです。
「復讐を諦めた」のではなく、「リザとの愛を選んだ」のです。
個人的にその差はこのシーンの萌え度を左右する最も重要なところです。
エンヴィーが自害を果たした場面で「卑怯者め…」と無念さを噛みしめるロイを見
ても、彼が最後まで仇討ちを諦めきれなかったことが分かるでしょう。
そして、エドやスカーがそれぞれにロイを思いやってかけた言葉は結果として功を
奏さず、ただリザの言葉だけがロイの心を浄化した事実…。
ああ何と切ないのでしょうか。
重くのしかかるイシュヴァール戦の責任、それを贖うためだけにこの国の頂点を目
指しているロイが、その目的を見失ってまでやり遂げたかった親友の仇討ち。
しかし、その仇を目の前で逃がしてさえ彼が諦めきれなかったものが、国の頂点の
椅子ではなく、「リザと共にある生」だったとは…。
15巻に続き、もはや萌えを超えた世界がここにあるような気がします。
これほどまでに希望を押しつぶされそうな状況で、それでもまだ互いの胸の奥に消
えない灯火を持ち続ける彼ら。
しかも今後、そのささやかな愛が報われる望みは何もないのです。
今や二人の幸せの前に横たわる泥の河、いえ血の河を、読者も共に苦しみつつ渡っ
ている錯覚に陥りそうです。
ああ、まだ試練は十分ではないのでしょうか?
何もかも放り出して抱き合うことの許されない二人に、今度ばかりは萌えというよ
りもただ、報われない切なさを感じました(涙)
今後、幸せは彼らに微笑むのか
正直なところ、信念を貫いた末の仇討ちで畜生道に堕ちることが男にとって何ほど
の恥だろうとは思います。
だから最初、「公私混同は許さない」と言わんばかりのリザのセリフはいささか鼻
についたし、いくら愛する女の言葉であってもこんな忠犬まがいの言い方に信念を
曲げるロイにはほとんど失望さえしていたのです。
しかし、実際にはリザが「公的な理由」ではロイを止められなかったこと、そして
最後にリザが口にしたのがまぎれもなく彼女の「私的な感情」であり、またロイが
どうしても抗えなかったのも自分の「私的な感情」だったと分かったことで、この
難解な95話も無事にロイアイ萌えシーンとして認識することができました。
「君にこんなマネをさせてしまった。私は大馬鹿者だ」
…そうつぶやくロイの、その激情から冷めた男の姿は痛しいですが、素手でリザの
手に触れた彼の心には嘘のないぬくもりを感じます。
何よりも、自分を「大馬鹿者」と評したその理由が恐らく、「君にこんなマネをさ
せた」ことだけに集約されていそうなところが彼らしい。
へたり込むリザの表情からは、任務を果たした充実感ではなくて、ただひたすらの
「安堵」だけを見て取れる。
だったら最初から「そんな顔をした貴方は貴方じゃない!」とだけ言えば良かった
のに(苦笑)
そんなわけで。
最後に残ったのはただ青臭い、青臭いだけのロイであったように思います。
実はイシュヴァールの頃からあまり成長していない、全てを利用して野望を達成す
ると口では言いながら、何においても最後には私情を優先し、私情のうちでもリザ
への思いは他の何を捨てても優先させる、とびきり人間らしくて愛おしいロイ・マ
スタング。
今回の顛末をもし天国から見ているなら、きっとヒューズは苦笑して「やっぱりお
前は青臭いままだな」などと言っていそうですね。
でもどうでしょう。「もっと成長しろよ」とは恐らく言わないような気がします。
お前はそのままでいいんだ、と言うのではないでしょうか。(そしてリザのために
自分への復讐を断念したロイを見て、「それでいい。リザちゃんを大切にしろ」と
念を押すような気がします。)
私も強くそう思います。
ロイは今のままでいい。
反省などせずに、すぐに前を向いて立ち上がってほしい。
卑劣な宿敵を前にして親友の仇討ちに燃えないのが「国のトップに立つ者の自覚」
なのであれば、ロイはそんなものを目指すべきではない。失格でいいのです。
今のまま、時に激情のままに流され、私情に抗えない熱いハートの人間でいたほう
が、ずっとずっと魅力的な男であるように思えます。
なぜなら、彼は一人で生きているのではないから。
常にリザがロイを見守り、彼がどんなに己を失いそうになっても、彼女が愛をもっ
て在るべき道すじに帰してやることができるのだから。
だから二人が二人でいるかぎり、ロイは思うままに生きていいのだと思います。
そういう馬鹿が一人くらいいてもいい…という感じでしょうか?
たとえそれで一生リザに頭が上がらなくてもね(笑)
そういう意味では、彼らは本当に二人で一つ身なのだなぁと改めて深く実感せざる
を得ない一件でありました。
しかし、問題は後始末です。
今回の顛末を閣下がどう判断するかですね。
閣下にとってはやはり今回の件は「人間の弱さ」と映り、私情を捨てて前に進めな
いロイは「大総統の椅子失格」と判断されてしまうのでしょうか。
それとも、ロイの暴走こそが人間の魂の熱さなのだと理解し、自分がホムンクルス
となることで失った「人間らしさ」を彼の中に認めるのでしょうか。
あるいはまた、人間世界の「王」とは突出して完璧な、あらゆる情に流されない人
物である必要はなく、彼を支え、時に諫めることのできる周囲の人々をすべて含め
てこその「王」なのだと納得するのでしょうか。
残念ながら96話での再登場を見送られた閣下の出番を、今か今かと待つばかりです。
そしてもう一つ。
上の方で「萌えて万々歳とはゆかないところが95話のシビアなところ」と書いた、
その理由について述べたいと思います。
晴れて二人が彼らのきずなを結び直したかにみえる今回の95話ですが、萌えの反面、
ロイアイの幸せな未来を切望する私たちにとってはあまり進歩と呼べる展開ではな
かったことも確かなのです。
共に生きるか共に死ぬか、まるで「心中」のような試練を彼らが乗り切ったことは
もちろん喜ばしい。そしてロイが神萌えのセリフとともに「リザを選んだ」ことは
祭りに匹敵する事件なのですが……しかし、彼らの相愛はとっくに分かっていたこ
とと言えば分かっていたこと。
よくよく考えてみれば、萌えの割には彼らの状況は少しも進展していません。
「15巻の焼き直し」と思えばそのようにも見えてしまいますし、何より「二人の幸
せ」という観点から眺めれば、単に宿敵のホムンクルスが消えたという変化しかな
かったことになります。
何よりイシュヴァール戦での彼らの殺戮について、こうしてエンヴィーが「自害」
という形で舞台を去ったことが、ロイアイにとっての贖罪になるのかどうか…。
それも判然としませんし、何よりやはり「戦争責任」という重い枷が解決しないか
ぎり、いつまた二人が心中めいた方向へと流れそうになるか分かったものではあり
ません。
事態は悪くはなってこそいませんが、何も好転していないのです。
ただ、ロイ自身が「リザを幸せにすること」を完全に諦めてはいないと分かったこ
と、そして戦争犯罪者として裁かれる(つまりは死刑をも)ことを受け入れる覚悟
を漂わせていた彼が、今回こうして「互いに互いが必要であること」を再確認した
という、その2点については明るい兆しと思いますが…。
今後の展開については先述したように閣下の言動が大きな影響力をもってくるでし
ょうが、もう一人、スカーの言動も重要になるのではと考えています。
イシュヴァール戦の発端を作ったエンヴィーに最後のとどめも刺さず、更には同胞
を錬金術によって大量殺戮した焔の錬金術師と共闘し、その精神の危機を救おうと
さえしたスカー。
彼は自分の中で、すでにロイやリザのしたことを許しているのでしょうか。
そしてその上でロイやリザを「新しい国家の担い手」と見ているのでしょうか。
もしもスカーがそのような思いを言葉にしてロイアイに伝えた場合、それは二人に
とってまたとない救いの言葉になると思うのですが…。
ひと言でもいい、「お前たちが築こうとしている新しいアメストリスに期待したい
のだ」という意味の言葉を二人にかけてくれたら…。そしてもしできるなら、
「虫ケラのためになど命を捨てるな。生きて生き続けてこの国を変えてくれ」
と言ってくれたら…!
そうであれば、それは間違いなく彼ら二人を幸せな未来へと導く重要な伏線となる
はずなのですが!!(もし言ってくれたら私、スカー様を奉ります)
読者の様々な思いをよそに、牛先生は今もまっしぐらにペンを走らせていらっしゃ
ることでしょう。そのパワフルなペン先が、どうか二人のハッピーエンドを紙面に
描き出して下さいますように!
毎度のことながら、それだけを祈ってやみません。
以上、95話感想その2のロイアイ考察といたします。
ここまでお付き合い下さった方々に心からの感謝をv
ありがとうございました。
文責:結城鈴々(再アップ 6/25 2009)
第95話感想その1へ