ユリイカ2010年2月号考察



◆対談「妖VS人造人間」??(違います笑)




---- ユリイカ2010年2月号対談を傍観する ----


※コミックス未収録部分のネタバレを含みますのでご了承下さい。



まさにあり得ないなんて事はあり得ない、といったところでしょうか(笑)
全国数千万という鋼ファンが驚愕した「牛先生には2歳になるお子さまがいらした!」と
いう新事実には、思わず「どこに伏線があったんですか!!」と叫んだ方々も多くいらし
たはず。いやはや…こればかりはコミックスを繰ってみても致し方なく(笑)
むしろ、その「伏線」が見事なまでに見当たらない部分にこそ先生のプロ根性を汲み取り、
1ファンとして、また同じく2歳児の母親として深く畏敬の念を抱かずにはおれません。
抱かずにはおれませんが、でもやはり叫びたい。
い っ た い い つ の ま に !!!???(笑)
とはいえ心から、
ご 出 産 お め で と う ご ざ い ま す vvvv

…スッキリしたところでユリイカ2月号対談感想+考察、テーマごとに引用と突っこみと
いう形式にて続けてみたいと思います。(たいへん密度の濃い対談であり、また「対談」
でありながら圧倒的に藤田先生の発言の方がボリュームがありますので、諸々の引用も全
文というわけにはゆきませず…個人的判断により要約してありますことを最初にお断りし
ておきます。どうかぜひぜひ皆様、実際の本をお読みになって下さいませv)



◆ダークな描写について

まず、冒頭からいきなり熱く鋼の読後感を語り出す藤田先生に度肝を抜かれました(笑)
いきなり「この作品は僕がいちばん聞きたい言葉を持っていると思った」と断言されて。
「あらためて読んでみて」と仰ってますから、対談のために初めてお読みになった訳じゃ
ないということですよね。そして以降、藤田先生の偽りのないパッションには胸が熱くな
るのを感じました。漫画評論家が作品を熱く語るのとはまた違う、同業者だからこその視
点で、しかしそうでありながらあくまで一読者として、上から目線ではなく我々ファンと
同じ目線で語ってくれたのが無性に嬉しかったv
以下、引用部分はこの色の文字で書きますね。
藤田先生がまず斬り込んできたのは「タッカー事件」の件でした。

「あれには読者としての僕はものすごく怒ったんですね(笑)錬金術で何かを生み出した
り手が剣になったりしてカッコいいでしょってときに」


これは意外でした。あの展開は、物語が軌道に乗り始めた矢先に読み手の気勢を削ぎかね
ない、という意味でしょうか?場合によっては萎えるぞ、という…。とはいえ、すぐにご
自分で分析+フォローをする藤田先生なのでしたが(笑)

「(それは)でも、この「鋼世界」ではそうした(カッコいい)ことと引き替えに、こう
いう気持ち悪いことにもなっちゃうんだよ、ということを最初に示したけじめみたいなも
のだと思う」


うーんなるほど…。面白いなと思うのは、私などは特に「錬金術カッコいいなーv」とは
思って読んでいなかったところですね(すみません笑)。初めから母親視点、生命視点で
読んでいたから、「純粋に少年読者の視点」というものを知って逆に新鮮でした。いえ、
もちろん雑誌側、作者側が想定している本来の読者年齢って中学生くらいなんでしょうけ
どね(笑)
ただ、この作品の希有なところとして私のような「ママ読者」が多いことも挙げられると
思うんですよ。出産を経験すると嫌でも分かる、赤ちゃんが血液と一緒になって体内から
出てくるあの感覚…(エグくてごめんなさい。でもほんとだから。)…ありますよね。
その感覚でこの作品を読んだ時にわき起こる、何か根源的な共感というか…他の作品では
お目にかかれない、女性作家さんだからこそ描ける(いまとなってはお母さんだからこそ
描ける笑)、人間の誕生と死についての美化を一切排除した表現に、母親っていう生き物
はどーうしても引きつけられてしまうんでしょうね。
藤田先生がこの対談を通して何度も何度も「地に足の着いた作品だ」と繰り返してらっし
ゃるのは、そのあたりに根拠があるのでしょう。人間を美化していないところ。
それと…これはここ2ヶ月くらいの連載内容を読んだからこそ言えることですけど、ここ
へ来て「そもそも錬金術そのもの、真理そのものが変じゃない?」という方向になってき
たわけですよね。だから今になって振り返ってみると俄然、物語初期の「タッカー事件」
やエドたちの人体錬成がいかにパンドラの箱だったか、「錬金術を使い、本来は神だけに
許された領域へまでも行ってしまう人間の性」や「錬金術の狂気」という要素が際だって
きていると思うんです。構成的にも説得力がありますよね。
だからこそ、「タッカー事件」を中心に据えた第1期アニメは個人的に早合点だったと思
うし、申し訳ないけど原作とは別の作品だと思わざるを得ません(苦笑)
対談の順序が飛びますが、「タッカー事件」にはさらに藤田先生の言及がありました。

(タッカー事件への評価が高かったのは今でも納得がいかない、と荒川先生が仰ったこと
に対して)
「そうしたダークな描写って(失礼だとは思うけど)すごく考えているように見えるって
いうところがあるんですよ。最近「誰も残酷すぎてできないことをやったから俺ってすご
いだろう」っていう漫画が多いでしょ」


うーん。確かにヘビーな描写を描くと「一見、高尚に見える」というところがあります。
「ダーク・ファンタジー」というのを、いかに残酷で救いのない展開があるか、いかに血
みどろの描写があるかという話だと勘違いしている人も多いようですし。
でも鋼という作品は特にダークではないですよね(笑)むしろ生命への賛歌にも近い話だ
と思うんですけど。ラストも「笑って終われたらよし」というお墨付きですしね。
牛先生としては、ただ「生き死に」という当たり前の循環について、さっきも言いました
が「美化を一切排除して」ありのままに語られているだけだと思います。
これが男性作者だと生にも死にも「ロマン」が入ってきてしまうところでしょうが、女性
にとってはキッチンでも起こりうる出来事…というのがプラスに働いている気がしますね。
あさり汁だって貝の断末魔を傍観しながら作るんですもん。←っていうのはちょっと違い
ますが(笑)でも出産云々言わなくても、女の方が血に慣れているところがありますから。
まして牛先生は華麗なる百姓貴族、畜産農家の出であらせられるのだし!




◆等価交換について

ここはまさに今後の結末についての重要な部分ですよね。ロイが失明した時に書いた考察
ともかぶる内容なんですが…

藤田先生
(23巻でゾルフに対してアルが言う、「何で二択なの?」「なんで元の身体を取り戻して
かつ皆も救う」が選択肢にないんだよ」というセリフをお褒めになってから)
「僕が『鋼』を読んできたなかで、ちょっとだけハートに届いていない部分があった。そ
れは等価交換だから仕方がないとはいえ、交換することばかり出てきていたこと。でも世
の中には「情け」ってものもある。「いいよ、お前にやるよ」という愛もあるはずだと思
って」

荒川先生
「最後あたりでまさに今みたいなことを描こうとしているんです(笑)」

藤田先生
「しかもそれが当事者であるアルの口から出たというのがまたよかった。よっしゃ!これ
でエンディングまでの最終章の幕がスルスルと開いた!って感じがして、同業者としても
祝福したい気持ちになりました」


祝福したい気持ちになられるなんて…お優しいなぁvこの辺りはただの読者には分からな
い感覚ですが、さすが先輩漫画家視点という感じかな?
しかしあのゾルフとアルのやりとりはカッコいい場面ですよね〜vオリヴィエ様に続き、
2度目の「等価交換否定」。しかも肉体全部を失っているアル本人の言葉。これがそのま
まロイの失明事件へとつながって、「等価交換て…理不尽じゃないか?」という現在の連
載の展開へと飛躍し、最後は人柱たち全員が(恐らく)元通りの身体を取り戻すことにな
るのだと思います。(102話の冒頭考察「最後の敵は真理か?」で詳細に述べましたが)
私が気になるのは、その解決法として「情け」や「愛」が出てくるのか?という部分です
ね(笑)果たしてあの「正しい絶望を与える」真理くんが、敗北宣言や消滅ではなくて、
「いいよ、お前に返してやるよ」的な慈悲でぶんどった身体の一部を返すのかどうか…
あるいはその結末に「人間の愛情が影響する」ということも考えられるでしょうか。
まぁこれはセリムの中にラスボスがいた場合に限られるかも知れませんが、ズバリ閣下夫
人の愛情がホムンクルスに影響したことが引き金となって、等価交換ではない結末へと導
かれる…という。
これはドリームかも知れませんけど、でも何かこう、やはり人間の「情」が物語の大事な
部分に関わってこないのも少し寂しい気がしますしね。





◆ロイの復讐について

◆リザの背中について

◆北海道人の「勿体ながり」について

文責:結城鈴々
2010年2月






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未完ではありますが、完結直前(完結約4ヶ月前)の一読者の高揚感が伝わってくる気が
しまして、リアルタイムのノリをそのまま残してみようと思い立ちました(笑)
うーん…やはり作品をひとまとめに鳥瞰できる今となってはまた別の意見がわき上がって
くる部分もありますが、それは新しい方のユリイカ……2010年12月号『特集・荒川弘』の
感想でまた触れたいと思います。

結城鈴々
2011年2月17日