ロイアイSSS






- まだ見ぬ君へ -






(ついに、と言うべきか。やっと、と言うべきか…)

病院の廊下はしんとして暗かった。
グラマン元大総統危篤の知らせはまたたく間に関係者のあいだを駆けめぐり、
激務の合間をぬって私とリザも何とか時間を見つけて駆けつけた。

東方司令部で彼の下に配属されてから幾霜月。
タヌキ親父に振り回されてばかりの日々だったような気がするが、それでも
私が今の地位にあるのは彼のおかげだと、言いたくなくても言わざるを得な
い程度には、私もリザもじゅうぶんにその「親心」を認識していた。

(何度「さっさとくたばれ」と念じても効かなかったのにな…)

弱々しく握り返された手は、枯れ枝のようにしなびていた。
自分の父親の最期を知らない私には、確かに心臓に訴えかけるものがあった。


その時である。
カタン…と控えめなドアの音がして、リザが病室から出てきた。
「…どうだった?」と即座に聞いてしまったのは、私だけが先に病室から追
い出されたためだ。
あのタヌキめはこんな時までシレっとした顔で、「悪いが2人きりにしてく
れんかのう?」などとかすれた声で抜かしやがったのである。


リザは困惑した表情で口を開いた。
「…意識ははっきりしていらしたようで……その…」
「なんだ?」
「…私の、おなかを熱心になでていらっしゃいました」

思わずギリリと奥歯を噛みしめてしまったが、まぁ無理もないか。
今のリザは臨月の妊婦だ。誰であれ、彼女を知る近しい人間ならふと腹部に
触れたくもなるだろう……たとえエロジジイでなくとも。
そう思い直す。

「グラマンめ…いやハッハッハ…そんなことで嫉妬する私ではないさ。安心
したまえ」」
「目がぜんぜん笑っていませんよ?」
「(ゴホッ)…それで?」

リザは眉間のしわを深くして、さらに困惑した様子で言う。

「頼んだよ、と……ひとことおっしゃいました」
「は?」
「頼んだよ、と…。私のおなかをなでながら」
「??」
「どう思います?何について頼むという意味だったんでしょうか。この国を
私たちに頼む?…それとも、この子のことを私に?…変ですよね。どういう
意味なのか…ちょっと解りかねて」

ハッと気付いた。
恐らくそれは私しか気付けまい、タヌキおやじの最後の願いだったのではあ
るまいか?


「…違うなリザ。きっと閣下は君のおなかに向けて言ったのさ。君のことを
頼む、とね。君のママを頼むという意味だ」
「は?だってこの子、赤ちゃんですよ?」

そう。そして彼の曾孫だ。
私の孫を、未来のファーストレディーに…
あの時の軽い約束がほんとうに現実になった今、あの秘密は「時候」という
ことでもう許されるのではないか。


「今まで言ってなかったんだが……ああ、リザ。ちょっと座った方がいいな」
「?」
「実は昔、閣下から伝えられたことがあってね」
「はい…?」





血とは不可思議なものだ。
人は生きてゆく中で、タヌキだったり、火蜥蜴だったり、鷹だったりする。
しかしそれでも、血はずっと受けつがれてゆく。
そう、まだ見ぬ君の中へも。





- Fin. -





グラマン家とリザの血縁について、ついに謎は明かされずに
終わりましたが、ここでは「その真実をロイだけは聞かされ
ていた」説を採用しています。

納谷六郎さんの訃報を聞いた時に瞬間的に浮かんだネタです。
納谷さんのお声、とても好きでした(涙)
ご冥福をお祈りいたします。
完結5周年記念のロイアイの日に寄せて。