Tomorrow Made New












ええと。
何と言ったっけ。

要は鳥のヒナが目をあけて、最初に見たものを親だと思いこむ機能のことだ。
人間も、朝に目を開けて最初に見るものがその日一日を左右するように思う。
例えばそれが、陽に透ける金糸のような女の髪だったらどうだ?
その晩のどんな悪夢だろうと毒気を失って、その清らかさの前に雲散するに
違いない。
そして、心満たされながら一日を過ごせることだろう。

「……んん……」

そうだな。もちろん最初に耳に届く音声も重要だ。
まだ意思の統制を受ける前の、しどけなく弛められた唇から漏れるこの無意
味な音の愛らしさはどうだ?

「……たいさ……」

ああ、忘れてはならないな。
たとえそれが社会生活上の役職名であっても、一日の始まりから自分を呼ば
れる安堵は何物にも代え難い。

「……もう少し……寝かせて下さい……」

おやおや、朝から頼み事か?嬉しいね。
君の知性をもってすれば、本当はそんなことに私の許可など必要ないことく
らい、すぐに気が付きそうなのにな。
これではまるで、君の眠りにまで私の支配権が及んでいると認めたようなも
のじゃないか。

「いいよリザ、寝てなさい。まだ早い」

金色のまつげにふち取られた目蓋は閉じられたまま、かすかな衣擦れと共に
彼女の顔が反対側を向いた。
すみません、と夢うつつの声がつぶやく。
……我ながら、罪悪感を感じるほどの幸せな朝だ。



ぼんやりと部屋の天井を見上げながらふと思い出したのは、かつてかの悪友
が新婚ほやほやの頃にその新生活の居心地について詰問してやった、その答
えだった。
「無粋だなぁお前。え?ねじがゆるみきった顔してるだと?当たり前だろう
馬鹿!俺はな、結婚したんだぜ結婚!」
こちらの事情を知っているくせにここぞとばかりに優越感を誇示するヒュー
ズにムッときて、確か続けてこう言ってやったはずだ。
男児たるもの、たかが女と所帯を持ったくらいで腑抜けに変わって恥ずかし
いとは思わないのか、と。
するとヒューズは3割方は本気で軽蔑したような表情を作って、こう答えた。
「お前にそんなことを言われようとはな。いいかロイ?そういうケチ臭いプ
ライドを持ってる奴こそ、幸せを取り逃がすんだぜ。最愛の女と所帯持って
腑抜けになれないような男にはな、畑のカカシかなんかの方が似合ってる。
ブタに真珠ってやつだよ!」

なるほどな。
今みたいなひとときならあいつの言葉も理解できそうだ。
すると、そうか。
いつか我々が家庭を持つようなことがあれば、こんな満ち足りた朝がずっと
続くと考えて……
いい、のか?



我ながら三十路にもなって情けなかったが、耳に火照りを感じた。
あまりのこそばゆさに、彼女が半分眠っているのを承知で思わずつぶやいた。
「……どうしたら、このままずっと一緒にいられるんだろうな……」

しかし驚いたことに、その独白の効果は絶大だった。
瞬時にがばっと身を起こすと、リザは金茶の瞳をぱっちりと開いて私をみつ
めたのだ。
「…いま、何ておっしゃいました!?」
おいおい、こちらの方がびっくりしてどぎまぎするじゃないか。
私はもたつきながら繰り返した。
「え?ああ……どうしたら君と、この先も一緒にいられるだろう、とね…」
すると急に脱力したように、リザは吐息とともにずずず…と再び横になった。
「…そんなことですか…びっくりしました…」
なんなんだ。驚いたのはこちらだよ。
いや、それよりも待ってくれ。我々の未来は「そんなこと」なのか?

「な、なにか聞き間違えたんだな。……で、君の答えは?」
顔を半分まくらにうずめたまま、くっくっくっ…とうつ伏せの彼女が笑った。
やはり寝ぼけているのだろうか。

「無防備でいて下さい」
「ん?」
「ずっと無防備でいて下さい…そうしたら、ずっと守ってあげられます」
「……ああ」

苦笑がこぼれた。そうだな。
でもよくよく考えたら、私が君の前で心を鎧ったことなんてないぞ。
いつだって私は、君の前では無防備そのものじゃないか。
そう思って、つい苦笑まじりにつぶやいた。

「何を今さら……」
「え?」
「あれ」

おっと、これは君の十八番だった。いつの間に伝染したんだろう。
見ると、金茶の猫目がめいっぱい笑っていた。肩まで揺らしている。
さすがに照れたので、照れ隠しにケットをつかんで寝返りを打った。
すぐにごそごそと音がして、彼女が私の背に身体をくっつけてきた。
おかしな振動が伝わってくる。まだ笑っているんだな君は。
一計を案じ、急にふり向いて、笑っている唇にキスを押しつけてやった。
嬉しそうな悲鳴は朝のごちそうだ。
もう朝一番に見るものが、なんて言っている場合じゃあないな。

「こうやって口癖がうつったんだよ」
「一方通行です。わたしには何もうつっていません」
「そうかな」
「そうですよ」

くすくすくす……目の前で金の髪をゆらして笑い、それでもまだ眠いのか、
リザはしきりに目をこすっている。
その姿はそれこそ無防備で、無性に愛らしくて、私は思わずその身体を引き
寄せた。

「……もう起きますから」
「あと1分だけ」
「だめ。甘えを超えてますよ……それじゃ依存です」
「なるほど、言い得てるなぁ」
「大佐!放して下さい!」
「嫌だ」
「……本当に1分だけですよ」
「うん」

2人でもう一度目を閉じた。
おかしいな、立場が逆転してる。やっぱり支配権は君の方にあるんだろうか。
いや、どちらでもいい。
親友から腑抜けと呼ばれようが、このひとときを味わえないのなら確かに救
いようのない男だろうと思った。
運命まかせで一緒にいられる2人などいないのだ。
出会いは偶然の神秘でも、意思がなければ人は離れてゆくものだ。
互いに通りすがりで終わらせたくなかったから、我々はこうして共にいる。
そうだろう、リザ?





やがて一分が過ぎるころ、蛇の尾を踏むようにおそるおそる、腕の中の彼女
にささやいてみた。

「なぁ。こうしていると、まるで夫婦だな」

恐ろしいことに、いくら待っても返事は聞こえなかった。
募る不安を押し殺し、勇気を出してうす目を開けてみた。
私のレディは、腕の中で寝息をたてていた。











- Fin. -













はい。ただいちゃいちゃしてるだけです;
身を寄せ合ってぬくぬくする2人を書きた
かっただけです。寒くなってきたからねv
タイトルはTMNですが、曲のイメージとは関
係ありません。(EXIPO大好きですよ〜)
読んで下さってありがとうございました☆