◆知りすぎた男は何を遺したか◆

**** ロイアイ考察・第3弾 ****


第3弾は、コミックス9巻において(僅かながら)初めて描かれた
イシュヴァール戦当時の人間模様をもとに、マース・ヒューズの
ロイアイ関係への介入度を考察してみたものです。
やっぱりアニメ版は考慮に入っていませんのでごめんなさい。




1: 親友の限界


 考察の第1弾において、マスタングとホークアイの出会いの時期についての推測を試みたことは記憶に新しい。
そしてその際、重要な手がかりと思えたのは、イシュヴァール戦当時の2人の位置関係であった。
 今回、第9巻の中でアームストロングの回想として描かれたシーンは文字通りわずかではあるが、マスタングと
ホークアイが当時すでに「少佐階級とその副官」として配備されていたことを知るには十分なものであったと思う。
(ホークアイは副官としてではなく、一スナイパーとして戦闘参加していたとも考えられるが、例のサイトスコープの
一コマはやはり、「側近として」上官らを援護射撃していたと解釈するのが妥当であろう。)
 第2巻における記述により、国家錬金術師がイシュヴァール戦に投入されたのは6年前とのことであるから、今
回の描写は作品中時間で最大に見積もっても6年より以前ではない。では、それ以前の彼らはどのような位置に
ついていたのだろうか。ホークアイについては、手がかりらしき描写は全く見あたらない。しかし、マスタングとヒュ
ーズについては共に写っている写真が描かれており、あくまで主観的な意見ではあるが、それはイシュヴァール
戦当時よりも「若干の幼さ」をもって表現されているように思える。
 それだけを根拠とするのはやや危険ながらも、どうやらマスタングとヒューズとの出会いの方が、ホークアイとの
出会いよりも何年か先行していたと推察する。

 はじめに結論を言ってしまえば、私はここでヒューズが2人の「キューピッド」の役目を担った可能性を指摘したい
のである。つまり、マスタングとホークアイというカップルの誕生には、親友であるヒューズの働き(?)が一役買っ
ていたのではないか、という仮説である。
 ただし、ホークアイについてはいささか意味深長な記述があり、彼女がもし「マスタングを守るべく軍人になった」
のであれば、彼女は最初からマスタングを思慕していたことになり、ヒューズの出番どころではない。従って、ここ
ではあくまでホークアイの人事決定権は軍にあったという仮定のもとで考察をすすめてゆくことにしたい。

 ともかくも、友人の少なそうなマスタングにとっては、ヒューズは軍における彼の最初の親友と言うことができそう
である。そして恐らくは、彼の秘めた「目的」を最初に知った人物であると思われる。この「目的」については、軍に
入った当初からマスタングが遂行を決意していたとは限らないが(つまり、国の惨状を見てだんだんと志した、とい
う推測も成り立つが)、彼が「軍の狗」という言葉を使う際の素直でない表情などを見ると、やはり「目的」のために
軍に入った可能性も捨てきれないように思う。(そもそも軍事国家において政権をひっくり返そうと試みたいのなら、
軍の内部から上へ登りつめるのが最も近道には違いない。)
 さて、そのように親友の野望を知ったヒューズは、「(マスタングの)下について助力する」と固く約束したらしい。
後にマスタング自身も述懐しているヒューズの性格は、「おせっかいで世話好き」。確かに、初対面のウィンリィを
その場で自宅にいざなう場面を見ても、そのお人好し度は相当なものである。妻のグレイシアによれば、「それで
損ばかりしている」とのことだが、ヒューズは何も家庭をかえりみずに他人の世話に明け暮れている訳ではない。
彼は誰がどう見ても愛妻家であるし、天下一の親バカ(笑)でもある。理想的な家庭人、というのが読者がヒューズ
に対して抱くイメージの集約ではあるまいか。いわば彼にとっては、周囲の親しい人間すべてが「家族」に等しいと
言っても、さほど過言ではないのかも知れない。

 その生まれつきの「家庭人」であるヒューズにも、転機は訪れたはずである。独身時代はその母性愛(?)のほと
んどをマスタングに注いでいたかも知れない彼であるが、やがてそうも言っていられない事態が持ち上がることにな
った。言うまでもなく、それはグレイシアとの結婚である。
 ここでヒューズは大きな転機を迎えたと思われる。今までは親友の夢を自分の夢とも思って尽力してきた彼も、妻
帯して自らが家長となることで、マスタングよりも優先しなければならない対象を持ったわけである。加えて後方支援
ならば何とでもなろうが、戦場で、それも前線にあってマスタングを支援するとなると、自らの身も相当の危険にさら
されることを覚悟しなければならない。
 「家庭人」たるヒューズは世話好きではあるが、一方でまた「他人のために尽くすにはまず自らの身を守ること」を
わきまえた人物である。第2巻におけるスカー襲撃の際のマスタングとのやり取り、あるいは「鋼対焔」における憲兵
場での模擬戦の例を見ても、彼が「身の危険」に対しては非常に敏感であり、かつ回避能力に長けていることがうか
がえよう。無論、これは力の出し惜しみなどでは毛頭ない。むしろ闇雲に命を賭けるよりも事態を長い目で見ていると
いう点で、彼の卓越した冷静な判断力を見て取れるエピソードなのである。

 そのようなヒューズだが、さすがに自分の結婚をマスタングに報告するにあたっては、罪悪感もしくは責任感を刺激
されないわけにはゆかなかったと考えたい。とすれば、彼が次に思いつくのは「自分の代わりにマスタングを補佐でき
る人物を探す」ことではなかったか。そしてそれは、後方支援のみならず常にマスタングの身辺近くで彼を助けること
ができ、さらに実戦での高い戦闘能力を有した人物が望ましかった。(もっと言うならば、新婚の人間にありがちな病
気・「やっぱりあいつも結婚しないと」病の症状として、是非とも女性を……とまで考えていた可能性もある。)
 こうして……様々な事情と状況を検討した結果、リザ・ホークアイに白羽の矢が立ったとしても、それはまったく自然
な成り行きであったかも知れない。

 もちろん、彼女の赴任時期とヒューズの結婚時期が偶然にも一致した、などというご都合主義もないであろう。ただし、
諸々の状況を照らし合わせれば、これらの出来事がほぼ同時期に起こった可能性はなくもない。
 彼の愛娘・エリシアが産まれたのが3年前として、ヒューズがイシュヴァール戦に出向いたのが6年前である。戦時
中に結婚式はあり得ないであろうから、やはりヒューズの結婚はイシュヴァール以前と考えられる。ホークアイの副官
着任もまずイシュヴァール前と考えると、2つの出来事は1〜2年の範囲内で起こり、さほど時期のずれはなかったと
してもおかしくはない。
 さらに、いくら親友のためとはいえ、マスタングの意思を無視してまでヒューズがホークアイに何らかの働きかけを画
策するはずもない。彼はまず何よりも最初に、新しい部下に対するマスタングの心情の変化を確認したはずである。そ
のうえで……ともすれば誤解を受けやすく、また誤解を解消する努力もしない親友を 「正しく理解する手引き」として、
ホークアイへの水面下での働きかけを始めたのではないか。

 ここから先は(今までも十分そうだが)私のまったくの想像にすぎず、コミックス全巻をひっくり返したとしても、根拠の
断片すら見受けられないことを先にお断りしておく。



2: 始めの一歩への一歩


 任官したばかりのホークアイが、新しい上司に対してどのような印象を持ったかを考えるのは楽しい。
 事前にホークアイに与えられていたマスタングの情報としては、恐らく芳しいものはあまりなかったのではないかと思
われる。曰く、女たらし、抜け目ない、功利主義、といったお決まりの負のイメージばかりが先行して伝わっていたはず
である。そしてホークアイの方も、「軍部」という完全な男社会で生きる女の末端として、女性としての自分を極限まで
シャットアウトする行動法を身につけていたに相違ない。そうでなくとも、まだ若い上司、それも「漁色」のレッテルを張ら
れた男の副官として、こちらもまだ小娘の年齢の自分が着任すれば、どのような噂が立つかくらいホークアイには分か
り切っていたはずである。
 そのような噂は彼女の最も忌避したいところであろうし、上司にも迷惑がかかる(かえって喜ぶかも知れないが)との
考えから、ホークアイは普段以上に表情から愛想を抜き去り、ビジネスに徹して上司に接したのではないかと推測する。
 マスタングの方が彼女にどう接したのかは全く定かではないが、恐らくどのように接したとしても、ホークアイにそっけ
なく対応されるだけだったのではないかと思われる。少なくとも、初めのうちは絶対にそうだったであろう。

  2人の距離に変化の兆しを見るまでには、マスタングの「野望」の真意をホークアイが知ることが不可欠であったと私
は考える。しかし、明晰な彼女の観察眼をもってしてもなお、その「野望」の全貌を自力で見抜くことは非常に困難であ
ったのではないか。従って任官してしばらくの間、ホークアイのマスタングに対する印象は、事前に与えられていた情報
そのままであったとしてもおかしくはない。
 ここに……我らのヒューズは、その短い生涯における「最重要お節介」の必要を感じたに違いない。親友のために、そ
して結果的にはその後の歴史のために、彼はひた走って行ったのである。(おせっかい街道を。)

 ヒューズの介入によって、ホークアイがマスタングを見る視点は一挙にくつがえってしまったに違いない。それもそのは
ず……今まで「ミニスカ王国」だと思っていたものが、本当は「クーデター準備会」なのだと知れば、どんなに冷静な人間
でも動揺しないわけにはゆかないであろう。
 マスタングお得意の軽薄な言動は、実は用心深さの表れであった。抜け目のない処世術は、単に目的に達するまでの
ポーズにすぎないのだろう。そして不遜な態度の裏では、深刻な孤独感と闘っている様子が見て取れたかも知れない。
 さらに、例の「錬金術手帳」の秘密までも、ヒューズはホークアイに暴露してしまった可能性もある。世間一般的に見て、
女の名前ばかり書き込んである手帳を持つ男、などというのは、才色兼備の女性にしてみれば軽蔑そのものではないか、
との心配からであろう。
 マルコー・ノートが料理書を装って書かれていた例を見れば分かるように、マスタングの手帳に書き込まれたデートの約
束はすべて暗号であると思われる。その詳しいところは見当もつかないが、恐らくは物質の元素名を女性の名に当てはめ
るなど(例えば酸素=Olivia、塩素Cl=Clara、ヘリウム=Helenという具合。発火燃焼を得意分野とするマスタングなので、
気体名が多いはずである。よく使う水H2Oは、ひょっとするとHotelかも知れない(笑))、彼らしい趣向を凝らしてあるものと
想像できる。
 マスタングの行動日程をほぼ把握しきっているホークアイにしてみれば、上官が騒ぐほどにはデートの暇など見あたらな
いことは明らかであったろうが、第三者である親友の口から確証が得られれば、それはそれで悪い気はしなかったはずで
ある。

 このような具合に、上司の実像を知ってしまったホークアイは、自分でも自覚しないうちに彼の味方に回ってしまったので
はないか、と私は推測する。それが単なる敬愛なのか恋なのかは不分明のうちに、彼女は気がつけばマスタングの「目
標」を影でサポートする位置に居場所を見つけてしまったのではないだろうか。そして、「軍部」という恋には適さない場所
にあって、いくぶんのぎこちなさを保ちながらも、彼らはお互いの距離を少しずつ埋めていくことになるのである……。


  こうして……2人の「始めの一歩」の第一歩はめでたく踏み出され、マース・ヒューズはその思いがけない死を迎えるま
での間に、本人も自覚しないままに大いなる遺産を国に残したのである。
 マスタングとホークアイ……後の大総統とその夫人。いや、そう呼ぶにはまだあまりにも時期尚早すぎるであろうか。
 しかし、ヒューズとの最後のやりとりとなった通話において、事実上の遺言となった「早く嫁さんもらえ」という親友の言を
マスタングが忘れることはあり得ないであろう。最後の最後まで自分たちの行く末を心配していたヒューズの言葉を抱き、
彼らは今後どのような足跡をえがいて愛を育ててゆくのか。
 あまりにも早く逝きすぎたヒューズに代わり、読者にはそれを見守ってゆく義務があると思うのである。




3: もう一つの遺産


 最後にもう一つ、忘れてはならないヒューズの遺産がある。それは言うまでもなく、エリシアの存在である。
常に「人体錬成」の誘惑にさらされている錬金術師たちにとって、自然界ひいては「真理」の示す絶対否定のNO、その
具現が作品中の子供たちなのである。ヒューズの遺伝子を受け継ぐエリシアが、この作品の中でまさに「子供」の代表
として描かれているのは非常に示唆的と言わねばならない。
 いつかそう遠くない未来に、マスタングとホークアイがその事実に気づき、エリシアの中に何かの答えを見いだす時が
……来る、のかも知れない。



文責:鈴々