◆雨と涙を禁じられた土壌に、愛の花は咲くか◆

**** ロイアイ考察・第2弾 ****


この第2弾は、本誌10月号+11月号において明らかになった
新たな重要ポイントを踏まえ、ロイアイ関係の再考を試みたものです。
っていうか、もろに読書感想文だったり?
アニメ版は考慮に入っていませんのでごめんなさい。




1: 叱責の理由

 誰が想像し得たであろうか? およそ不手際と縁のないホークアイが、マスタングに激しく叱責される、などとは。
その内容も語気も、どう見てもいささか厳しすぎるものである。読後当初は、もう一人の部下・ハボックの手前をはば
かっての、マスタングお得意の「照れ」の発現かとも思われた。しかし、あのきつい言葉の数々は真摯であった。お
そらく、ハボックがもし不在であり彼ら2人きりであったとしても、その激しさはほとんど手加減されなかったのでは
あるまいか。
 曰く、「うろたえるな。思考を止めるな。生きる事をあきらめるな。軍人なら。私の副官なら。」
 要約を試みるなら、「任務にある間は私情(愛情)抜きで行動せよ!」ということになろうか。読者の甘い妄想を断ち
切らんばかりの、野望に命をかける男の冷徹さがそのままそこにあった。
 これは何なのか?幸せな想像を通り越して白昼夢に浸るロイアイストたちを、どうにかして現実に引き戻そうとする
作者の鉄槌なのか?まずは、マスタングのその叱責の理由から考えてみたい。

 よくよく思い返して見れば、紙面に描かれていない部分に気付かざるを得ない。つまり、あのホークアイの涙の理
由を、マスタングは彼女に訊ねたはずなのである。そうでなくては、彼女がマスタングの死を一瞬信じたという心理
状況を、マスタングが知る由もない。そして恐らくそれは、あの日病室で初めてなされたのであろう。
 彼らにしてみれば、ハボックという第三者がいる前で上下関係を超えた会話をするわけにもゆかない。だから、それ
は初めから相愛の者同士としてではなく、「上司」が「部下」に対する姿勢で行われることは自明であった。しかし、私
は逆に、マスタングがハボックの同席を味方として、ホークアイに本音を吐いたのではないかと思うのである。

 ハボックは、マスタングにとって実に忠実な部下である。対ラスト戦においても文字通りその命を賭して、マスタング
の名サポートを遂行している。彼にとっては任務こそが生きる糧であり、、マスタングの「目的」がそのまま自分の「目
的」となっているのである。
 ひるがえってホークアイはどうか。無論彼女にとっても、マスタングの「目的」は自分の「目的」として認識されている
はずであった。しかし実際には、マスタングへの愛ゆえに「彼を守る」ことが第一優先となってしまい、「目的」は二の
次になってしまっていたことが露呈したのである。そうでなければ、彼が死んだと聞いて「生きる目的を失い」、泣き崩
れてしまうわけがない。
 マスタングが指摘したいのは、「それが君の甘さだ」ということであろう。もちろん、彼はホークアイの愛を受け入れて
いるし、彼とて彼女を愛していることに間違いはない。ただ、恐らく自分にしか成し遂げられないであろう「目的」を持つ
マスタングにとって、ホークアイとの愛は「生きる目的」とはなり得ないのである。これは冷たいようだが純然たる事実
であり、当の2人の間でも納得済みの問題だと思われる。作者の意図は、この点を読者に喚起させることにあったの
ではないか。
 読者の同情を一身に背負うホークアイの心中は、「ごめんなさい」の連呼と、あとはマスタングへの想いで満杯であろ
う。しかし、マスタングはそれを百も承知の上で、「戦意喪失を愛のせいにするな」と叱責しているのである。
 厳しい条件の中で自分をここまで慕う女性に対し、どこまで非人間的な行動を要求するのか?
 読者の心中に、マスタングに対する疑問が群雲のようにわき起こった一シーンであった。


2: 限界にまで抑制された愛

 というのが、読後当初の感想であった。しかし、波立った神経が落ち着くにつれて、それまで思っても見なかったある
ことに気付かされた。すなわち、これがマスタングの「愛のかたち」、あるいは「愛の証」である可能性はないのか?と
いう見方である。
 ここで、彼らの関係をもう一度おさらいしてみることにする。

 まず、マスタングにはどう考えてもホークアイの他に、彼女と同レベルの戦闘能力を持ち、かつ自分と「目的」を分け合
える同士はいない。それは、本人にも分かり切っているはずである。
 しかし、厄介なことにはホークアイは女性であり、彼に心からの愛情を寄せている。そして更に厄介なことには、マスタ
ング自身もホークアイを愛している。
 通常ならばそこで、願ってもない伴侶を手に入れたと喜ぶべきところだが、本当にそうだったろうか。実際には、これは
野望に賭ける男には大誤算だったのではあるまいか?なぜなら、目的のためにはわずかな計算ミスすらも許されないは
ずだが、愛情の介入によってその計算にずれや狂いが生じるおそれが出てきたからである。
 実戦での唯一無二の味方が最愛の異性であるという状況は、確かに短時間の戦闘においてなら絶妙のコンビネーショ
ンを生み出すかも知れない。だが、同じ組織内にあって彼らに敵意を持つ人間たちを相手取った時、彼らはすべての言動
を質に取られることを念頭に置いて動かねばならないであろう。「軍人」ならば、そして「直属の副官」ならば、職場では常
に一緒である。つまり、ホークアイをそのような位置に置くならば、常に適地に共にあるのと同じことであり、マスタングとし
ては「野望」にプラスして「仲」までも隠し通さねばならない。これは大変な労苦ではあるまいか?

 こうなるとマスタングとしては、「任務時とプライベート時で、ホークアイに対する接し方を変える」ほか仕様がないであろう。
もちろん、ホークアイにも同じ行動パターンを厳守させなくてはならない。
 さらにマスタングは、「野望達成のために、ホークアイへの愛は生きる目的とはなり得ない」ことを、当のホークアイに納得
させなければならないのである。彼女はマスタングの「野望」の重要さを知り抜いているゆえに、これはすぐに納得したので
はないかと思われる。
 しかし、次はどうだったであろうか? 同じように、「マスタングへの愛を生きる目的とはするな」とホークアイに納得させる
ことは……99%、すぐには無理だったのではないか?
 彼女に限らず、これはどんな女にも通常無理なのではないかと思われる。愛する男の目的を分かち合う決意をすれど、愛
と目的は精神の引き出しの中で混然一体となってしまい、見分けがつきにくいのが女だと思うからである。意識の表層では
厳格に仕分けたつもりでも、深層ではやはり別々の引き出しには仕舞われていないのではないか。
 しかし、マスタングにはどうしてもそれを彼女に厳守してもらう必要があった。しかも、そうすることで肝心の彼女の愛を失う
ことは許されなかった。卑怯を承知で、無理強いを承知で、しかし彼女には約束を厳守してもらう必要があったのである。
 なぜか?……そう。それだけが、「野望」と「ホークアイ」を両方とも手に入れられる道だから、なのである。

 おそらく、この予想は外れていないと思われる。希代の「食えない男」マスタングはいま、史上最高の欲張りな賭けをして
いるのであろう。あくまで何もないような冷静さで着々と上を目指し、その実は極限までホークアイへの愛情を抑制しながら、
素知らぬ顔でどちらも手に入れる気でいるのであろう。
 最愛のパートナーに最も過酷な要求をしてでも、何がなんでも賭けに勝つという気迫……それが、あの病室での一件で、
我々がマスタングに垣間見たものではなかったか。そしてまた、互いの限界まで愛を抑制し合う彼らの姿こそ、このカップリ
ングの魅力の真骨頂と見るべきではないか。
 雨を禁じられ、涙をも禁じられた彼ら2人の地面。しかし、通常ならばとうに乾ききってしまいそうな過酷な条件のもとで、
水は絶えることなくその地下に湛えられているのであった。何という深い「絆」が、彼ら2人を結びつけていることだろうか。
 彼らの土壌にいつかその地下水があふれ、そこに咲く花のあることを願ってやまないのは、決して私だけではあるまい。
いや、それこそ世のロイアイストたちに課せられた使命と自惚れたとしても……これは作者に許されるに相違ない。

 


文責:鈴々