ラスボスをめぐる考察



◆ラスボスをめぐる考察◆




**** そしてセリム=ピノキオ説とは!? ****


※コミックス未収録部分のネタバレを含みますのでご了承下さい。



この考察は、主に本誌第88話におけるセリム=プライドの衝撃的なセリフ、「母親
とはこういうものか、と」「それがあなた方人間なのです」「人間を信用していま
す」等を重要なヒントとして踏まえ、その後第93話までの展開をもとにお父様とセ
リム=プライドのどちらが真のラスボスなのかを考えるものです。
(第88話感想内の考察、及び第91話感想内の考察とは内容がダブる部分があります。
ご了承下さいませ。)
なお、現時点(第93話)での結論として管理人はラスボス=プライドだとほぼ確信
しております。以下、その理由について述べてゆきます。
(その後、第96話発売時点で後半部分を加筆いたしました。しかし今もってラスボ
スがプライド(セリム)であるという確信は変わりません)





最初に「ラスボス」の定義を

まず、この物語におけるラスト・ボスとは、
1:元フラスコであること(その意識や意思をそのまま残している存在であること)
2:国家錬成陣計画を企てた存在、つまり「約束の日」において何らかの利益を得、
何らかの目的を遂げようとしている存在であること
この両方に該当するキャラクターだと定義しておきます。




プライドこそラスボスだと思う理由は

たくさんありますので列挙してゆきますね。

1:まず「お父様」との会話がないこと。他のホムンクルスたちは「お父様」から
直接命令を受けるシーンが必ずあるのに、プライドは「お父様」と1度も会話をし
ておらず、もちろん命令も受けていない。にも関わらず他のホムンクルスたちを絶
対服従させていることが不自然だから。

2:プライドだけがウロボロス・マークが無い。

3:「始まりのホムンクルス」という呼び名は、「一人目のホムンクルス」ではな
く「すべての元凶」という意味で使われている気がするから。

4:「最初に切り離された」という事実自体がトリックなのではないかと思うから。
実際にはプライドが「お父様」を最初に切り離したのではないか。他のホム兄弟たち
は後から生まれたゆえに、その順番などいくらでもごまかせる。

5:「傲慢こそお父様の本質(ホーエンハイム談)」ということは、フラスコの本
質こそ傲慢であるというわけで、矛盾はないから。

6:第85話扉絵のチェス盤において、キングの位置にいるホーエンハイムと相対し
て敵キングの位置にいるのがセリムだから。あのチェス盤は巧妙なヒント(笑)

7:お父様のキャラクターがいささか薄っぺらいため。「人間は資源、虫ケラ」等
の物言いは、勧善懲悪ストーリーで使い古された典型的な「敵のボス」そのもので、
あまりにも深みに欠ける。

8:「影に潜む」というプライドの特性を考えると、皆既日食という天候条件を最
も有利に使えるキャラはやはりプライドだと思えるから。何話にもわたって延々と
プライドの習性(?)が説明されてきたのも、ラスボスを示すヒントに思える。

9:グラトニーを食べ、その能力を身につけたプライド。93話ではゾルフを食べて
「(今後は)自分の中で生きられる」と言っているが、その「食べた者の能力を自
分の能力とする」習性こそ、約束の日に国民全員を使って何かをしようという目的
と相関関係があるのではないか。


主立った理由としてはこのくらいでしょうか。
とにかくも、88話のセリムの言葉にはなにか真に迫るものを感じます。
義理の母親である閣下夫人への愛着、そして「それがあなた方人間なのです」「人
間を信用しています」と言い切った表情を見ても、あれがアルを陥れるフェイクだ
とはちょっと考えられません。
対照的にお父様のこれまでの言動は、どう吟味しても薄っぺらいのです。
14巻では人間を虫呼ばわりしたあげく「資源」と言ってますし、人柱以外の人間は
どう見ても「目的のための材料」としか考えてないですよね。ここまで練り上げら
れた巧緻なストーリーの黒幕としては、あまりにも幼稚に思えます。

そして決定打は最新93話でのプライドの言動です。
「セントラルに我らの父上がいるかぎり、君達は勝てない」
「勇気ある逃げない人間というのは本当に乗せやすい」
そしてヨキの運転する車で森を脱出したアル一行を見送るプライドの、完全に思惑
通りという顔…これで確信しました。

つまり「お父様」はおとりなのではないでしょうか。

「お父様を倒さなければ約束の日に大変なことが…!」と思わせること、それが元
フラスコの罠であり、作戦だったというわけです。
でも実際にはそうではありません。恐らくお父様という「容れ物」を壊しても、人
間側の危機は変わらないのです。それをさもラスボスであるように操り、他のホム
ンクルス兄弟をもだまし通して(恐らく)彼らを自由自在に利用し、自分は無邪気
な子供の身体を文字通り「隠れみの」として過ごしてきた…
それがセリム、この物語の真のラスボスであり、元フラスコなのだと思います。
単純な話、錬成陣が全開となった時にお父様を食べてしまえば、プライドは簡単に
元の自分に戻れるのですから。



それでは「お父様」とは何なのか

しかし、確信はあるのですが、100%納得の行く説明をするに至るにはまだ疑問もた
くさん残されています。
まず筆頭はこれ。
「お父様自身はその事実をどう理解しているのか?」です。
どこをどう見ても、お父様も「ラスボスはプライド(セリム)」だと理解して、そ
の上でおとりの役目を演じているようには到底思えません。やはり「自分が黒幕」
との自覚をもって過ごしているように見えます。
その身体能力についてもそうです。
エドアルの傷を等価交換でなく治してみせたり、国中の錬成エネルギーを止めてみ
せたり、グラトニーを作り直したり、前グリードを釜ゆでにしてその身体から賢者
の石を抽出したり、それを飲んだり…。
確かにラスボスとして十分な能力を備えているように見えるのです。

この辺りをうまく説明する方法として挙げられるのは、巷で言われている「遠隔操
作説」などでしょうか。
セリムがお父様を「操っている」という仮説。つまりセリムが本体で、お父様の身
体は傀儡のようなもの、ということですね。
これなら「ラスボス=プライド」の線を残したままで「お父様こそラスボスに見え
る」ことを説明できます。さらには上で挙げた「プライドとお父様の会話シーンが
ない」ことも納得がゆきますし、「お父様の身体が年老いてゆく」理由についても、
本体が抜け出したためだという説明が可能になります。
ただし、致命的なのは「何によって操るか」の部分でしょう。
思念波やサイコキネシスのたぐいは鋼世界には無縁。
ではプライドのぞるぞるか?もしそうなら今までに伏線があったはずだし、いきな
り種明かしでお父様にぞるぞるが生えてくるのでは反則でしょう。

巷で見かけた説としては、他に「お父様とセリムの身体を行ったり来たり説」もあ
りました。要するに元フラスコは2つの「容れ物」の間を行き来しながら過ごして
きた、という説明ですね。
しかしこれは十中八九あり得ません。なぜなら彼らは明らかにそれぞれの身体を同
時に動かしている場合があるためです。セリムは大総統の養子としてごく普通の日
常生活をこなしているはずですし、土のドームに閉じ込められたプライドのモール
ス信号をお父様が感じ取るシーンでは、明らかにお父様とセリム、双方の「意志」
が感じられました。

では、お父様とは何なのか。
(ここまで2009/4/5)





急展開の第96話!!

何とも手際が悪くて恐縮なのですが、管理人がカメのようにぐずぐずしている間に
本誌の方では急展開、ついにお父様が自らその目的を語るところまで描かれてしま
いました。
これによってラスボス考察も急展開か…と思いきや、まだ決定的な材料はなかった、
というのが管理人の感想ですが。
それでももちろん、お父様が自ら語った「目的」は吟味すべき材料です。曰く、
「私は人間ではなく完全な存在になりたいのだ」。
しかし対峙するホーエンハイムは「人並みに家族がほしかったのではないか」と。
一体どちらが真の目的なのか…コマ運びなどから憶測しますと「人間」の方である
ようにも見えますが、「どちらとも」(つまり完全な存在となって人間界で人間と
して生きる)という可能性もあるわけですから、これは最後まで真実は分からない
かも知れません。

ただラスボス考察としての焦点は、「96話のお父様があまりにも真のラスボスに見
えた」という点でしょうか。
その錬成能力、セリフ内容、そしてホーエンハイムの指摘「なぜ人造人間たちに父
と呼ばせて側に置いたのか」…。どれを取っても、96話のお父様は真のラスボスで
はないとは思えない描写ばかり(苦笑)
さらにはホーエンハイムの「昔は感情豊かな奴だったのに、感情を切り離したから
無表情になった」という指摘。これにはあまりにも説得力があります。
では、ラスボス=プライド説はここに潰えるのでしょうか?

答えは否です(笑)やはり管理人にとっての確信は揺らぎません。
22巻でセリムの言う「私には父はいたけれど、母はいなかったので興味深かった」
という言葉は、こうなってみるとますます面白いと思います。
他のホムンクルスたち、例えばラストはお父様について「生みの親に対する愛情が
ある」と語りましたし、グリリンも「生んでくれて感謝する」と言いました。また
グラトニーは「お父様に作ってもらった」と言い、再生力を失った時はまるで赤子
からやり直すようにお父様の賢者の石で大きくしてもらいました。
つまり、お父様は「擬似マザー」なのです。ただしもちろん、胎内に内包して産み
落とすのではなく「切り離す」ことで子を増やす、母性のない母です。
そして人造人間のうちで唯一プライドだけが人間の「母性」に興味を持ったのは、
その擬似マザーであるお父様(=完全な存在)を作ろうと試みた本人だからではな
いかと思うわけです。(もちろん人間の母のもとで生活したのはプライドのみだか
ら、というのは大きいのですが。)

最初から推測してゆくと、こうなります。
ますラスボスである元フラスコは、クセルクセス最後の日に「完全なる存在」を作
ろうと画策し、「お父様(初期型)」を作りました。(作ったというよりそれにな
ったと言うか…。)
恐らく「完全なる存在」とは母性と父性を両方とも備えた存在、つまり1人で子孫
をどんどん増やしてゆくことのできる、まるで神のような存在を指しているのでし
ょうね。これは13巻でグラトニーに飲まれたエドが解き明かした、クセルクセス遺
跡の壁画錬成陣の表すものそのままです。
しかし、フラスコの最初の試みは失敗でした。
その身体は人間と同じように子孫を生み出すことはできず、ただホムンクルスとし
て自分の中身を切り離してゆくことしかできなかった。
つまりは「擬似マザー」にとどまり、その機能はあくまでも父性のみだった。
そこでフラスコは同じことにもう一度チャレンジしようと決めたのでしょう。
その際、自らはその身体を離れて「プライド」となり(=始まりのホムンクルス)、
残りを「お父様」とし、それを操縦しつつ、あとから切り離されたホムンクルスた
ちにはお父様を本当の「父」と思わせて、皆で壮大な計画を推し進めたのです。
国家規模の錬成陣を作る一方、「年を取るホムンクルス」など、人間からホムンク
ルスを作る試み(それも子孫を増やす別の試みなのかも)もやってみた。
そして、自らが隠れみのとして選んだセリムの「家族ごっこ」生活を通して、人間
の母親の愛情を知った。もしかすると、セリムの身体とは元フラスコが人間を観察
し理解するための「窓」だったのかも知れませんね。
そしてそこで味わった特殊な感情こそ、「母性」というものの暖かさだったのです。

問題は、その「母性」こそ「完全なる存在」のために欠けていたものだと、元フラ
スコが気付いたのか否かですね。
そして現在発動寸前の計画に、その「母性」から学んだノウハウが生かされている
のかどうかですが…。まさか元フラスコの目的は、今度は「お母様」を作ることだ、
などということもあるのでしょうか?(笑)

残念ながら今の段階ではまだ、ここまでしか推測の材料がありません。
それに、少なくとも数十年前から国家主要人物の近くで生活していたらしいセリム
にとって、今の閣下夫人が初めての「母」だったとは限らないわけです。マダムク
リスマスが調べた写真の中には、明らかに主要人物夫人とおぼしき女性もいました
からね。
ただし、土のドームの中でアルに語ったセリムの言葉から察すると、どうやら「母
性」のぬくもりで包んでくれたのは現在の閣下夫人が初めてだった…ようにも聞こ
えますが。
もしそうだった場合、この元フラスコ=ラスボスに対する閣下夫人の影響力は絶大
なものに思えますね。それこそ「最後の頼みの綱」的な力を持つのではないでしょ
うか…。
果たして最終的に、セリムは「おかあさん」をも目的のための資源として使うこと
ができるのでしょうか?



セリム=ピノキオ説

そんなこんなでまだ穴のあるラスボス説。
具体的に「約束の日」の後でお父様やプライドがどうなる、という推測は残念なが
ら不可能ですが、一つだけ、ラストに向けてかなり確信している推測があります。
それがこのセリム=ピノキオ説です。

作者である牛先生が、この物語を単純な勧善懲悪ストーリーにはなさらないだろう
という憶測は、皆さん共通のところだろうと思いますが。
しかし、勧善懲悪な結末にならないということはつまり、ラスボスが完敗はしない、
そしてその悪事計画のうちの「一部は生きる」ということに他なりません。
ではこの物語の中で、そこにはどんな可能性があるのでしょうか?
…はい。管理人は「最終的にセリムという1人の子供が残る」と予測致します。
とは言っても、もちろんそれは後の禍根となるような残り方ではありません。
セリムという容れ物に、一つの魂が定着する感じ…と説明すればいいのでしょうか。

というのもですね。
最終的に、あの閣下夫人が夫もセリムも失って、失意と絶望の果てに慟哭する…
という居たたまれないシーンが描かれるとは到底思えないからです。
牛先生の言う「救い」が各キャラに用意されてあるのなら、やはり彼女の未来のた
めに夫か息子、どちらかは必ず残るだろうと思われるのですね。
しかし、国のトップである閣下には重大な責務があります。
イシュヴァール戦や国内のその他の内乱の責任、ホムンクルスの計画のために犠牲
となった全ての人々に対する責任を取らねばならない。その重大さを考えれば、そ
れはもはや閣下がどんなに謝罪したとしても償いきれないレベルですよね。
つまり、閣下は生きて奥さんとの幸せを願う立場にはすでにいないのです。(ロイ
アイ2人の戦争責任なんてそれに比べたら可愛いものですよ〜ホント)

では、どういった展開ならば奥さんにとっての「救い」となるのか。
管理人はここで、最後にセリムが本当の人間の子供となって(あるいは成長するホ
ムンクルスとなって?)夫人のもとで生き続ける可能性を推します。
それに勝る救いは考えられません。
もちろんプライドがラスボス、つまりフラスコであれば、究極的にはフラスコの夢
が叶うことになってしまうのかも知れないわけですが(苦笑)
しかし恐らくその特殊能力を始め、「フラスコだった」とか「プライドだった」と
いう記憶もキレイさっぱり消えた、無垢な少年としてのセリムが最後に残る、ある
いは国家錬成陣と逆転陣の相互作用のアクシデント奇跡?のようなことが起こり、
最後に1人の少年セリムが錬成される…
そんな結果になるのではと予想しています。

ここでピノキオの物語を思い出してみて下さい。
ピノキオは最初、慢心したただの「動く木偶人形」でしたよね。でも後に自分だけ
ではなく他者を思いやることを学んだ時、つまり「心」を学んだ時に本当の人間の
子供になるのです。
セリムが閣下夫人のことを「あれは好きです。これは本当」と言った時、すぐに思
い浮かんだのがこのピノキオの物語でした。
つまり、96話でホーエンハイムの指摘した「お前の捨てたもの」すなわち「他者と
のきずな」を、セリムは閣下夫人を通してすでに学んでいるのではないでしょうか。
だとすれば、88話の「自分だけ良ければいいという考えを持たないのが貴方達人間
なのです」という彼のセリフにも合点がゆくのです。
そして今後、セリム=プライドは最後の最後にあのおかあさんを、「人間の子供と
して」思いやるのではないでしょうか。
そうして初めて自分の身に「人間の心」を自覚した時、様々な作用の中で奇跡が起
こり、ラスボスである元フラスコは1人の人間の子供になれるのでは…そんな気が
してなりません。
これがセリム=ピノキオ説です。



そうなると、閣下の立ち位置は

思うに、閣下はお父様の計画を子細に理解していたからこそ、最後に1人の人間の
子供を作ろうとして協力したのではないでしょうか。
もちろんホムンクルス側が完勝して「完全な存在」が作られてはならない。
しかし人間チームによって計画が完全に阻止されてもいけない。
だからこそその中間、お父様(まぁ閣下はラスボスはセリムだと知っていたと思い
ますが)と人間側の間に立って、その最後の瞬間、約束の日に1人の子供が残るよ
うに、密かな計画を練ってきたのではないでしょうか。
(あるいは、これは上で書いてきたことと異なりますが、「1人の人間の子供」と
なることこそ最初からラスボス=セリムの目的であり、お父様の語った目的は単に
おとりであって、セリムは閣下だけを真の協力者として身内のホム達をもだまして
きた、という説も成り立ちますね。こちらも同様に面白いと思います。ただし、そ
うすると現時点でセリムが人間を見下している理由が説明できなくなりますが…)

いかがなものでしょうか。
これなら閣下自身は子孫を残せなかったけれど、最後に奥さんに子供をプレゼント
したことになります。つまり最終的な勝者は閣下だということです。
(それこそ以前のSS「ダーク・ホース」で書いたとおりです〜笑)
そして物語全体として見た時には、アメストリスという一つの国が「分解」し、色
々な角度から「理解」され、最後にまた「再構築」されたという、物語全体が「大
いなる錬成過程だった」という構成になるわけです。(あ、以前も書きましたね;)
その結果として、1人の未来ある子供が残る…。
ものすごく見事な幕引きだと思いませんか?

ただし、これらの推測はもちろん「生命は錬金術によって作り出せない」という真
理とは微妙に食い違う可能性があります。
そこをどう処理と言いますか、矛盾のないように説明してくれるのか、それともや
はり1から魂の錬成をするのは不可能なのか、またあるいは賢者の石にされたクセ
ルクセス人の魂の中から、奇跡的に1人の少年の魂がセリムの容れ物に定着するの
か……。
牛先生の語る「驚愕の結末」を、一日千秋の思いで、そして言いようのない寂寥感
とともに待つばかりです……!!


以上、96話時点でのラスボス考察としてここに置いておきます。
ここまで読んで下さった皆さまありがとうございましたv


文責:結城鈴々
2009/6/30