**** ロイアイ考察第8弾(本誌第60話ベース) ****
本誌2006年7月号では、長らく読者が引きずっていた「はたしてロイはリザの背中を見たのか?」という
疑問にようやく明確な解答が与えられました。
しかし同時に浮き彫りになったのは、この時期の彼らがまだあまりにも暗中模索中だったという事実と、
読者を不安にさせるほどの絆の脆弱さ……つまり「背中を見たこと」が彼らを離れられない仲にはしたけ
れど、それとは別の「絆」、それぞれの意志で結ばれるはずのパートナーシップはまだ未熟なままだった、
という事実ではなかったでしょうか。
興味深かったのは、ロイとリザを取り巻く登場人物たちが、行き先の定まらない2人にこれみよがしに自
分の信念を披露してゆく演出方法でした。
ここではロイとリザがあと一歩先で自覚するはずの「守るべきもの」、そして他の登場人物たちがすでに
心中に抱く各々の守りたいものについて、少々書いてみたいと思います。
守るべきもの。
説明するまでもなく、もともとはコミックス第6巻で幼いウィンリィに軍人として銃の引き鉄を引く理由
を問われたリザが、ロイのことを「守るべき人」と表現したところから借りてきているわけですが。
イシュヴァール編の魅力は、登場人物のそれぞれがそれぞれに異なる「守るべきもの」を抱いている、と
いう点にあるのではないでしょうか。
敢えて戦争の是非や軍隊の正当性ではなく、荒川先生が表現しようとなさっているのはまさにこの一点、
主要なキャラクターたちがそれぞれに違ったものを念頭に置いて戦っている、という人間模様なのではな
いかという気がします。
では、具体的に彼らはそれぞれ何を守ろうとするのでしょう?
まず「命が惜しい」、これはどんな人物にも共通の思いでしょうが、特に自分の理念抜きで戦いを強いら
れる下っ端兵士の人々にとっては、自分の命を守るだけでも精いっぱいでしょうね。
階級が上の人物になるに従って、それは次第に名誉欲とか出世欲と絡んでくる。そうすると、地位を守る
ために他人の命を省みなくなり、結果として部下に自分の命を奪われる指揮官も描かれました。
だからと言って、上官殺しをやってのけたグラン大佐を素直に「正義の使者」とは呼べないあたりが複雑
なのですが、少なくとも彼は味方の兵士をわずかでも犬死にから守った、という点でより良い選択をした
と言えるのかも知れません。
一方、「守るべきもの」を持たずに戦う人物として描かれているのがキンブリーだと思います。
恐ろしいほどの的確さで戦場の真理を説く彼は、しかしその真理を見抜きながらそれに従うことが可能、
という点で常軌を逸した人物と言うべきでしょう。彼が戦う理由は、実際には仕事だからではなく、それ
が快楽だから。真性のサディストとして作品中でまず最初に認知されるべき例ですね(苦笑)
7月号の時点では深入りを避けますが、個人的希望としては、その狂気に秘められた意外な真実があった
ら面白いなと思います。(プライドとの関連を疑っています。意味不明でしたらごめんなさい;)
痛々しいのは、「守るべき」と思う人々に対して武器を向けろと命じられたアームストロング少佐のよう
な人物でしょう。彼が守りたいのは自分よりも弱い人々だったのに、彼が命じられたのはそういった人々
を殺戮することだった。結局、彼はその矛盾に耐えきれず、軍人としての栄達をあきらめてまで戦線を離
れてゆくことになるんですね。
もちろん彼は後にそれを後悔してホムンクルスとの戦いを誓うわけですが、それでも彼は一度たりとも出
世の道が閉ざされたことは後悔していないようです。彼としては、イシュヴァールで守るべきものは守っ
たと言えるのかも知れません。
そして、ヒューズのように自分の未来を守るために淡々と任務をこなす人物もきちんと描かれています。
汚いものを、そうと知りつつ飲んでみせる人は偉大です。最も大切なことだけを見据えているからこそで
きることでしょうね。
戦場でのヒューズは、グレイシアとの幸せだけを考えて行動しているように思えます。あるのは保身への
配慮のみで、軍への奉仕の精神などもしかしたら毛ほども存在していないかも知れません。愛し愛される
女にとって、これほど頼もしい人もいないでしょう(笑)
思い出してみればヒューズは、「世話焼き・お節介」が信条と思われている一方で、危ない状況には必ず
近寄らないんですよね。彼が(例えばロイと比べて)とても大人に思えるのは、自分を犠牲にしてまでは
他人に尽力しないから、かも知れません。その代わり、身内に害の及ばない範囲であれば全力で助けてく
れる人。(ロイはすでにヒューズの身内に属していると思われます。)
誰よりも「守るべきもの」をはっきりと自覚しているからこそ、誰よりも大人びて見える彼なのでしょう。
さて、それと比較して子供のように描かれるのがロイなのだと思います(笑)
彼は反対に、「汚いものは汚いじゃないか」と譲れない人なのでは。いえ、今はまだ、そこまでありのま
まに現実を見つめることさえできていないようにも見えます。でも、後の彼……やがて猫をかぶる術を覚
え、目的のためには本心を殺し、利用できるものは何でも利用すると明言するような人間になってからも、
ロイの本質はやはり子供っぽい、という一言に尽きるような気がします。
とにかくあきらめが悪く、わがままを貫くために自分をすり減らす人に見える。意志が通るならすり減っ
たことも気にしない。リンゴを取ろうとして木から落ちて怪我をしても、リンゴが取れたら怪我は痛くな
い、というタイプですね(笑)
こんな、自覚もなしに自分を犠牲をするような男を愛した女は大変でしょう。まず、無理をしないでと言
っても無駄ですから、とにかく同じ場にいて負担を分担するしかない。バカがつくほど責任感も人一倍で、
どんどん抱え込むからとことん分担するほかないわけです。リザ、本当にお疲れさま…
あれ?話が逸れました(笑)
問題は、そうまでしてロイの守りたいものは何なのか、です。
7月号、墓前でのリザとの会話で、ロイは確かにこう言っていますね。
「皆をこの手で守ることができれば幸せ」と。
軍に入隊した当初は、ロイは確かに「軍人の理想」ともいうべき人道的な建前を信じていたようです。つ
まり何の疑いもなくまっすぐに、国家や国民や倫理や正義を守ろうと誓っていた。
けれど、私は後にロイが軍のトップを目指そうと決意したとき、同じことを念頭に置き、それらを守るた
めに決意をしたとはどうしても思えないのです。
なぜなら、イシュヴァールでロイが軍に裏切られたのは、決して殲滅を命じられたからではないから。
「錬金術を殲滅に使え」と命じられたから、彼は軍に裏切られたと感じたんです。それほど、焔の錬金術
は彼にとって特別な思い入れのある持ち物なのだと思います。
無理もありません。それがロイに授けられた経緯を思えば、「人間兵器」にさせられた彼がどれほどの失
望を感じたかは想像に難くない。しかも、ロイに秘伝を授けた直接の責任者であるリザが見ている前で、
その兵器ぶりを披露しなくてはならないんです。真面目な若ロイに、これ以上の屈辱もありませんね。
そんな中で、かつて士官学校で同じく「青臭い夢」を語らった仲であるヒューズは、恋愛を知ることで自
分の個人としての幸せを優先してゆく。その姿を見て、ロイもまた個人としての感情を行動の糧とするこ
とを学んだとしても、不思議はないのではないでしょうか。
ここで言う感情とは、怒りです。
自分が裏切られたばかりでなく、部外者に伝わらない配慮までして秘伝を遺してくれた師匠を裏切らせた
怒り、そして自分を信じてその背を託してくれた少女を裏切らせた怒り。
つまり、ロイが守りたいと願うものは彼らとの「信頼」ではないか、というのが私の推論です。
もちろん軍のトップに立って錬金術師制度を変えることは、間接的に国家や国民を守ることにつながるこ
とでしょう。でも、表には出ないところで……口には出せないコアな部分で、彼が守るべきと決めたもの
が師弟間の信頼であり、リザとの信頼だった……という解釈を、私はどうしても支持したいのです。
だからこそ、ロイがいずれ大総統になったとしても、それだけでは野望達成にはなりません。リザが自分
の背中の重みが報われたことを実感し、父親との約束を全うできたことを喜んでくれて初めて、ロイの野
望は達成されるのだと思います。
そのくらい、ロイにとってホークアイ親子はあまりにも「運命」そのものであるように見える。そして、
彼とリザは間違いなく運命のペア。
けれど、ただ運命だというだけでは現在のロイ&リザが誕生する根拠には足りなかったのですね。荒川先
生はさらなる「絆」をその上に上乗せするおつもりなのでしょう。
それこそが、彼らの自由意志で結ばれる絆……2人が2人であるゆえんなのだと解釈します。
では、当のリザの言う「守るべき人」とは、彼女のどんな想いから決定されたのでしょう。
……ベタですが、それはもう愛としか呼べないのではないかと思います。
恋そのものであり、唯一の身内に等しいロイへの守護欲求であり、ロイの取り戻そうとする信頼に対して
の受容の愛であり、彼が軍に対して抱いた怒りへの慈しみの愛。
そして彼女はロイがたとえ「正義」ではないとしても、その引鉄を自分の意志で引くのだとか(PG2)。
やはり、そこにはもう世間の倫理や正義の通用しない何かがあるような気がします。
守るべき人。守るべきもの。
とても意味深な言葉です。「守りたい」というよりも更に強い意志を感じます。
互いにそう思い合うロイとリザ……彼らは本当に、不毛なイシュヴァールに咲く希望の花のようですねv
最後に、閣下の守りたいものについても触れておかねばならないでしょう。
興味深いことに、ホムンクルスである彼が生みの親である「お父様」を守ろうとする、もしくは守るべき
と認識している描写は今のところ皆無なのです。他の兄弟たち、ラストやエンヴィーには、そういった言
動が少なからず見受けられるのですが……。
そして7月号での発言、「(自分たちに)鉄槌を下すのはあくまで人間」と言い切るのを見ると、彼はま
るでホムンクルスを滅ぼしにやってくる人間を待っているようにも思える。
人造人間である矜持を持ちながら、「人間の矜持」の番人でもあるような大総統。彼が守ろうとしている
ものが「人間の可能性」だと言ったら、大きすぎるでしょうか?
(これ以上は過去の考察でくどいほど述べましたので、割愛いたします。)
……では、以上もちまして7月号考察とさせていただきます。
(これもくどいですが、萌えのポイントは考察とは別物ですから!必ずしも考察に基づいた二次創作ばかりやるとは限らないですよ/笑)
文責:鈴々
2006/7/4