Party Dress
ふと、すれ違いざまに低く問われた。
「あまり飲んでいないな」
苦笑を返す間にも彼女は別の人々の輪におさまってゆく。
あれだけの談笑をこなしつつ、いつ観察していたものか。
窮屈な場所と、この窮屈な正装のせいもあったが、
ボディガードが酔ってはとんだお笑いぐさだから、
というのがグラスを空けない本当のところだ。
年に一度の無礼講である。
娯楽の少ない北方の国境とあって、兵卒も司令部からの賓客も
今夜ばかりは羽目を外している。
ほとんど紅一点の彼女は、サービス満点の衣装とその如才なさで
文字通り宴の華だった。
時計を見ればすでに深夜に近い。
日付が変わる頃には抜け出すと、前もって言われていた。
それとなく紫のドレスに目をやれば、
彼女も時折り視線を送ってよこす。
タイミングを計っているのだ。
やがて手に持ったグラスをくい、と一気に干すと、
彼女は次の酒をもらいにゆく素振りをしてその場を離れた。
合わせてこちらも自然な動作で広間を後にする。
ハイヒールの音を廊下に響かせながら、すぐに彼女が並んだ。
「やれやれだ…」
空のグラスを手に持ったまま、頭を横にふる様子が微笑ましかった。
豊かな金髪が左右に広がってはさらりと流れる。
「何杯空けました?」
「知らん。このドレスといい、全身が葡萄色になりそうだ」
「ご心配なく。足取りはまだまだ確かですよ」
「ふん、本当は眩暈がして今にも倒れそうなんだがな」
「…本当ですか?」
わずかだが本気で心配する声になった。
途端に口元がきゅっとつり上がり、彼女はシニカルに笑った。
「だから抱き上げてこのまま部屋へ連れて行ってくれと頼んだら、
貴様はどうするかな…ふふ」
言葉よりも、見上げる目元の艶っぽさにどきりとさせられる。
酔いを含ませているせいか、普段の5割り増しでコケティッシュだ。
差し出されたグラスを受け取り、手近にあるオブジェの台座に置いた。
グラスには彼女のルージュの跡がくっきりと移っている。
ふと無機物に嫉妬を感じて、我ながら病的だと苦笑した。
それならば部屋に彼女を連れて帰り、思うさまにそのくちびるを
味わえばいいのだ。
それが許されているのは誰あろう、私だけ。
どんなに羨まれようと、生憎それは自惚れではない。
「…っ何を…!やめろマイルズ!!」
「何故です?貴女が頼んだことですよ」
「嘘に決まってる!こんな姿を他人に見られたら」
「どうすれば誰にも出くわさずに司令室へ帰れるか、この要塞迷路を
知り尽くした私です。ご安心を」
「……」
さしものじゃじゃ馬少将も、酔えば少しは素直になるらしい。
不服そうに抱き上げられた口元はずっとへの字のままだったが、
それ以上の文句は出てこなかった。
そのまま非常ドアを肩で押して開け、壁の内側を伝う階段を登る。
腕の重みが心地良かった。
踊り場の小さな窓の外で、まだ雪が舞っている。
「明日にはやむといいな…」
ぽつりとつぶやいた横顔が、なぜか幼くあどけなく見えた。
もともと小柄な身体がふと頼りなく思えて、無意識に腕に力がこもる。
気が付けば、驚いて私を見上げた彼女にそのまま口づけていた。
かすかに香る葡萄の果。
…そうか。
私が飲まなかったのは、恐らくはこのキスのためか?
− パーティー・ドレス −
本館に置いていたイラストに
小話をつけてみました。
かなりのとこマイ→オリで。
(いいの、夢見すぎでも;)
2人のことを考えてたらつい
「ボディーガード」という映
画を思い出したんですよ。
無愛想なケビンが本気になっ
てゆく過程が萌えるのよねv
ちなみにマイルズさんのタキ
シード姿もいつか描こうー。
